「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムのオフィスへ。なぜソリッドなデザインにこだわったの?|グッドカンパニー研究 Vol.10
北欧での経験から得た、生産性と働き方への新たな視点
横石:僕はひとつ怪しんでいることがあります。それは、クラシコムの創業ストーリーとして、兄妹で北欧に行き、目利きである店長こと妹の佐藤さんが北欧のアイテムと出会ったという原点がよく表立って語られますよね。 でも同じぐらい重要だったのは、青木さんが北欧の人たちの働き方や生き方に触れて感化され、それがクラシコムの裏側を支える思想や、現在の経営哲学に繋がっているのではないかと。 青木:そうかもしれません。やはり北欧で見た景色というのは、僕にとっては相当大きくて、「こんな働き方ができるんだ」と思わせてくれたんです。 最初はエンジニアをしているスウェーデン人の友達の家に泊めてもらっていました。あるとき彼が、9時に出社して17時に帰宅して、「いやもう今日はマジで疲れた。1日にミーティングが2本もあったんだ」と言うんですよ。 日本人としては「冗談だろ」と思うじゃないですか。でも彼は僕より高いサラリーをもらっていたし、調べてみると国民一人当たりのGDPも日本より高い。つまり生産性が高いということですよね。 あるときは、スウェーデン人の女性のエグゼクティブが、16時ぐらいに子どもを保育園に迎えにいって、自室で遊ばせながら仕事をしている姿を見ました。それが全然、優しい世界には見えなかった。自分に合った働き方ができる代わりに、誰かに頼って生きようとする人があまりいない。すごくソリッドな、強い世界だったんです。 北欧の国々は、資源が少なく、人口も少ない。そのような制約の中で、いかに国全体の生産性を上げるかを常に考えています。それは単なるヒューマニズムではなく、国家としての生き残り戦略なんです。 それから、共同創業者が妹で、お互いに結婚している状況で起業して、僕は子どもが生まれたばかり……という個人的な事情もありました。 妹もいつ産休に入ってもおかしくなかったので、「子どもができました」と言われたときに、「なぜ今」と思いたくなかった。兄として、いつでも反射的に「おめでとう」と言えるように、起業のデイ・ワンから準備をし続けていた気がします。 トップマネジメントがそういう経験をしているので、会社のカルチャーとしてもその仕組みができている。実はコロナ禍と、当社のベビーブームの時期が重なって、社員の20%が休みに入るという状況が3年続いたのですが、それぞれのポジションを空けた状態で乗り切ることができました。 しかも産休・育休から帰ってくると、みんな子どもに揉まれて、一様に「覚醒」しているんです。生産性も、不確実耐性も、コミュニケーション能力も爆上がりしている。休みをとった人はバキバキの仕上がりで帰ってくるし、間を埋めてくれた人の能力やリーダーシップも磨かれるから、組織はどんどん強くなっていますね。