プチ整形“注入治療の時代”は終わり? セレブも離れ始めているわけ
フィラーの需要
フィラーは40年ほど前から存在しているけれど、世間に浸透したのは2010年になってから。非外科的な“プチ整形”として知られるフィラーは、通常、架橋型ヒアルロン酸(非架橋型ヒアルロン酸よりも分子の密度が高く寿命が長い)から成っている。 数々の美容液に含まれるヒアルロン酸は、真皮構造の中で自然に作られる成分。「ヒアルロン酸は線維芽細胞の生成を促進します。線維芽細胞はコラーゲンとエラスチンの生成を担うため、ヒアルロン酸は皮膚の健康において重要な役割を果たしていると言えます」と説明するのは、英Prima Aestheticsの美容外科医、グリン・エステバネス医師。「でも、この自然なヒアルロン酸は時間と共に分解するので、年を重ねるとシワが目立つようになります。フィラーは失われたヒアルロン酸と水分を失い、肌のハリを取り戻します」。必要に応じて溶解することができ、比較的安価(200~350ポンド)でダウンタイムが短いことを考えれば、シワ取り注射とフィラーが最近の美容施術の9割を占めているのもうなずける。 でも、フィラーの人気が高まるにつれ、悪徳プロバイダの数も増えてきた。フィラーは薬のように国の規制を受けていない。言い換えれば、誰がフィラーを投与できるかを規制する法的な枠組みがないということだ。医療従事者にしか供給されず、同じく医療従事者にしか投与できないシワ取り注射と違って、フィラーは処方薬に分類されていないため、(英国では)誰にでも購入できる。「パーソナルトレーナーや客室乗務員、一般企業の秘書が講習を受け、注入エキスパートと名乗っているという話を聞いたことがあります」と話すのは、英Illuminate Skin Clinicの創業者で美容皮膚科医のソフィー・ショッター医師。「誰かが目の前で針を振りかざしていても、その人に適切な資格や教育、経験があることにはなりません」 フィラーの失敗例として有名なのは、唇のフィラー施術で動脈にフィラーを注入されて危うく失明しそうになった21歳の歯科看護師のケースと、注入したフィラーが細菌に感染し、頭と目に慢性的な痛みが生じた45歳の女性のケース。美容整形トラブル専門の弁護士で、主に豊胸手術などの侵襲的手術が失敗に終わったケースを扱うマイケル・ソール氏によると、最近はフィラーのような非外科的施術に関するケースが急増しており、彼のクライアントの中には、皮膚充填剤を誤って網膜に注入するという医療ミスで片目の視力を失った人もいる。