プチ整形“注入治療の時代”は終わり? セレブも離れ始めているわけ
フィラーの罠
フィラーの衰退を示すもっとも明かなサインはおそらく、世の中の“美の基準”が少しずつ変わってきていることだろう。最近は美容商品の広告でも、目尻のシワ、シミ、ほうれい線を目にすることが多くなった。今年4月には106歳のアポ・ワン・オドがフィリピン版『VOGUE』の表紙を飾り、『VOGUE』最高齢のカバーモデルになった。コスメブランドのシアテ(Ciate)は昨年の秋、当時100歳だったインフルエンサー、アイリス・アプフェルとコラボして化粧品の開発を行った。女優のヘレン・ミレンは、78歳になったいまでもロレアル(L'ORÉAL)の顔。米国美学会の最新トレンドレポートによると、米国では2020~2021年の1年間でフィラーの溶解件数が57%増加した。フィラーに関する規制のない英国では正確なデータが出せないけれど、スキンクリニックSelf Londonの創業者で顧問皮膚科医のアンジャリ・マフト医師は英国も米国と似たような状況にあると考えている。 マフト医師によると、フィラーの溶解の流行には“不注意盲”(非注意性盲目)として知られる現象が関係している。心理学専門誌『Psychonomic Bulletin & Review』掲載の論文によると、人工的に細くしたり太らせたりした顔に慣れると、普通の顔が歪んで見えるようになってしまう。「いつもフィルターを使っていて、人工的に鼻を小さくした自分の写真ばかり見ていると、“普通”の写真を見たときに脳が自分の鼻は大きすぎると考えます」とマフト医師。コートニー・コックスなどの有名人は、この罠に引っかかったと思われる。 コートニーはポッドキャスト『Gloss Angeles』の中で「自分がいい感じだと思っていた頃の写真を見ては唖然とする」ことを明かした。「自分の顔が少し変なことに気付かない。自分にはそれが普通に見えるから続けてしまう。鏡に映る自分を見て『おっ、いい感じ』と思ってしまう」。マフト医師いわく、施術者は施術を受ける人と同じくらいこの状態に陥りやすいというから恐ろしい。「あまり話題になりませんが、この業界では非常によくあることです。医師も自分を振り返り、実は自分が大きなプレッシャーを感じている可能性があることに気付く責任があります」