井上貴博アナ「テレビはこんなに嫌われているんだ」と日々実感。それでもテレビを変えたいと挑戦を続ける理由
“多様性”の時代と言われる世の中で、一番“多様性”がないのはテレビ
――テレビ業界の中で、特に変えたいと思っていることはどんなことですか? 井上貴博: 近年、“多様性”が重視される中で「なぜテレビは全部一つの方向に伝えているのか」「これだけたくさんの局があるなら、もっと各局の特色があっても良いんじゃないか」と、ずっと疑問を持っていました。もちろん放送法には準じますし、人を傷つけるような発言はNGです。 一方、新型コロナウイルスに対してもさまざまな見方があるなかで、「一つに偏っていないか」「本当にそれで良いのか」というのは、もう少し提示すべきなんじゃないかと思います。 多様性が叫ばれている中で、一番多様性をなくしているのは自分たちテレビメディアなんじゃないかなと。多様性がないことの窮屈さは全てのニュースですごく感じますし。だから、新型コロナウイルスに関してはテレビで出されていないような発言をするようにしています。例えば「コロナは怖い」と言うだけではなく、他のデータと比較するようにしたり、“感染者”ではなく“検査陽性者”という言葉を使い続けたりするように心がけています。 もしかしたら「命が大切です」と誰もが必ず肯定することを伝えるほうが安全なのかもしれません。でも、本当にそれで良いのかなと。コロナから命を守ることも大事だけど、経済も命だし、全部命ですからね。まあ、僕はこういう人間ですし、もともとテレビ嫌いなのにテレビ局に入社した生意気な人間なので、一人くらい他とは違うこういう奴がいても良いかなと思ってやってますね。 正解とかは全然わからないですけど、こういうところからも「テレビは本当に変わらなきゃいけない」と心の底から思っているんです。
若い世代が声をあげやすい環境を作っていかないと「日本社会全体の先がない」
――自分の意見を言うことに怖さはありますか? 井上貴博: 怖さはありますね。怖さはないといけないんじゃないかなと思います。怖さがなくなって、公共の電波でわがままを言いたい放題言うようになっては良くないと思うので。でもテレビ全体、メディア全体が一つの方向に向かうことは気持ち悪い。 令和の時代、“誰も傷つけない”ということがすごくキャッチーになって、良いものとされていますよね。そこは僕も良いと思います。誰も傷つけちゃいけないし、傷つけるべきではないですから。一方で傷つけないことを大前提とした上で、誰も傷つけない言葉は、もしかしたら誰にも届かない言葉なんじゃないかとも思うんです。要は自分が傷つく覚悟があるかないかで、結局誰かを傷つけていると思うんですよ。1億人いたら、1億人全員を傷つけない言葉なんてあるのかなと、どこかでうそぶいている自分もいます。 ――後輩や後生に対してはどんな思いがありますか? 井上貴博: 僕はやっぱり、生意気な後輩の方が好きですね。僕も生意気でいつづけたいし、後輩も僕に対して生意気でいつづけてほしいなと思います。言いたいことを言ってほしいし、歳を重ねたら丸くなるんだから若いうちくらいはトガっていないと。先輩としては後輩が生意気でいられる環境を作ってあげたいです。 あとは、世の中を動かしている人や経済を動かしていると言われるTwitterやInstagram、TikTokで人気を得ている若い世代が声をあげやすい環境を作っていかないとテレビはもちろん、日本社会全体の先がないんじゃないかと思います。報道で「最近の若者が~」とか言っている場合じゃない。若者がどれだけ優秀で感覚が優れているか、ちゃんと向き合おうよと思いますね。若い世代が声をあげやすい環境を作れると良いですね。 ----- 井上貴博 TBSアナウンサー。1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2017年から『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、自身初の著書『伝わるチカラ 「伝える」の先にある「伝わる」ということ』(ダイヤモンド社)を出版。 文:清永優花子 制作協力:BitStar