菊池桃子「人は少し自信がないくらいの方が実はぐんと伸びたりする」40歳からの“大人の学び直し”で得たものとは
芸能活動のかたわら、現在、戸板女子短期大学客員教授も務める菊池桃子さん(54)。障がいがある娘の就学問題をきっかけに、40歳で法政大学大学院に入学し“学び直し”をはじめた。「最初はパソコンの操作や専門用語がわからず、ゼミに出ても8割くらい意味がわからなかった」と語るほど、大学院在籍中は苦労もあったという菊池さんが、“学び直し”から得たものとは――。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
40歳で大学院へ。障がいがある娘のために学び直したい
――大学院で学び直しを始められたのは、40歳のときだったそうですね。 菊池桃子: 赤ちゃんのときに脳梗塞を発症し、後遺症による障がいがある娘が、小学校1年生になったタイミングでした。障がいがある方々の社会における活躍の仕方を、母親として先に学び、娘の一番の相談相手になりたいと思ったことがきっかけです。 娘を育てていく中で最初にぶつかった壁が就学問題でした。娘が小学校に入学したとき、障がいがある子どもたちの教育環境があまりにも整っていないことに驚いたんです。教育の先には職業生活があるのに、障がいがある子どもへの特別支援教育のやり方は自治体ごとに異なっていることに疑問を持ちました。 そこで、ハンディキャップがある人はどのようにライフキャリアを形成していくのか、法律や政策は満たされているのか、他国と比較したときに不足していることはないのかということを学ぶことにしたんです。 ――障がいがある人の存在が意識されていない社会では、就職や結婚など経験できるライフイベントやライフキャリアに制限がかかってしまうこともあるかもしれません。 菊池桃子: 人々が障がい者を排除しているというより、制度や法律が整っていないなと思います。“やってあげたいけれどもやってあげられない”という社会を変えるために、教育機関や社会などの制度が先に動く必要性を感じました。 私自身、娘を育てる中で人が冷たかったと感じることはほとんどなかったんです。それよりも、一緒に悩んでくれるけれどもどうしたらいいのかわからないという人が多くて。マイノリティへの想像ができないというよりも、そこまでたどりつけていない社会だという印象を受けました。 ――障がいがある人を支える方法として他にもさまざまなやり方がある中で、研究の分野に惹かれた理由を教えてください。 菊池桃子: 一番根底の定義や理念など基本のキを学べると思ったからです。研究や調査は、私的感情があまり入ってきません。客観的な調査研究であれば何が求められているのか、何が違いなのか、私的感情に左右されずに明確になります。論拠や根拠がしっかりとわかることで人に訴えやすくなり、説得するときにデータや研究材料があることは最強の武器だと思いました。 ――大学院での学び直しでは、どんなことが楽しかったですか? 菊池桃子: 新しい友だちが増えたことです。利害関係が絡まない、学生時代に出会った友だちに似たような関係性を、40代になっても作ることができたのはうれしかったですね。 また、この年齢で「先生!」と頼りにする人はいないと思っていましたが、勉強を教えてくれる担任の先生ができたことも非常にうれしかったです。 ――逆に大変だったことはありますか? 菊池桃子: パソコンの操作が未熟だったので、グラフの作成や相関関係を出す作業などテクノロジーと向き合うことが非常に大変でした。加えて、大学院に入ってから最初の1年間は専門用語が難しくて、ゼミに出ても8割くらい意味がわからなかったんです。わからない言葉は家に帰ってから電子辞書で調べて、理解を深めるために例文を作成して研究仲間にチェックしてもらうなどして学んでいましたね。 正直、逃げ出したくなるくらい大変でしたが、「お母さんが勉強をするから期待していてね!」と子どもたちに言っていたので、絶対にやり遂げなきゃいけないという思いがありました。その約束がなかったらくじけていたし、逃げられない環境に入ったことで100%以上の力を出せたと思います。睡眠時間も削っていましたが、大学院の在籍期間だけ頑張ればいいとわかっていたので「寝不足でも仕方ない」と割り切って、少し体にも負担をかけていました。