1日14時間以上働いても「手取り15万円」 美容師らの“苦境”
「これでも少しよくなった」と組合代表
美容師・理容師ユニオンの原田仁希(にき)代表(33)は、実態を次のように説明する。 「ここ20年、美容師業界の長時間労働はずっと問題視されていました。特にアシスタント時のトラブルが多い。『練習だから給与は払わなくていい』というのが店側の姿勢です。ただ、業界全体としては、少しずつ良くはなっている。社会保険の未加入も残業代未払いも少なくなりました」
転機の一つは2007年末、大手美容室チェーンAsh(アッシュ)が美容師338人に対して未払いだった約4800万円の残業代を支払ったことだった。アッシュの美容師らが「首都圏美容師ユニオン」を結成し、会社側と団体交渉をした成果だった。 「しかし、今も問題はあります」と原田さんが続ける。 「美容師は今の時代、業務委託が多く、割の合わない長時間の業務を強いられることがある。業務委託だから残業代も発生しません。手元に残る報酬と拘束時間が社員時代より悪くなるケースがある。業務委託契約を解除したくても、違約金100万円を請求されたり、最後の月の報酬が払われなかったり」
「従業員のことを考えないビジネス」
では、どうすれば美容師の状況は改善されるのか。 「どの業種も同じですが、従業員が離職する主な原因は、労働環境と人間関係です。働く環境を整備する必要があるのに、美容室の経営者はほとんどそこに目を向けていない。従業員のことを考えたビジネスモデルになっていないのです」 こう話すのは「ヘアガーデン・ テンダネス」(千葉市)のオーナー、海野貴裕さん(41)だ。海野さんの美容室は、ユーザーに最も支持された店舗を表彰する「ホットペッパー・ビューティーアワード」(リクルート主催)で、4年連続全国1位になった。
美容室の経営者は従業員のために意識を変えるべきだ、と海野さんは言う。 「例えば、ほとんどの美容室は土日に営業しています。確かに週末はお客さんが来やすいですが、土日に営業しても売り上げは2倍以上になりません。人手不足の一方で、美容室の数は増加傾向が続いている。『他の美容室も営業しているから』という根拠なき理由で土日に営業していたり、無理な店舗拡大で営業せざるを得ない状況だったり」 開業7年目となる海野さんの美容室では、従業員はパートを含め計3人。4年前から日曜日、祝日、月曜日を休業にしている。「働きやすさの整備こそ受賞の秘訣」と海野さん。従業員の技術も上がり、顧客満足度の上昇につながったという。