1日14時間以上働いても「手取り15万円」 美容師らの“苦境”
売り上げノルマの達成について、船木さんは「店から圧が掛かることは日常茶飯事」と話す。船木さんの店はノルマの40%以上という最低ラインを達成できない場合、歩合は一切発生しない。 「5年目くらいに正直やってられなくて、辞めようとしたんだ。自分を指名してくれる常連のお客さんを70人くらい、5年もかけて集めたのよ」。しかし、店側に80~85%は持っていかれる。「だから、会社と交渉し、完全歩合制としてお金をもらえる業務委託に切り替えたんだよね。美容師は離職率も高いし、会社はこれ以上人を失うわけにもいかなかったらしく、要求は通してもらえた。2倍まではいかないけど、今では給料(報酬)が増えた……。美容師を辞めて別の業界に進んだりする人がほとんどだけどね」
“超”有名店でも厳しい実態
大木優光さん(仮名、26)は、有名美容室で働きたいという思いから、高校卒業時に地元の東北地方を離れ、都内の大手美容師専門学校へ進学した。美容師の国家資格を取得し、2016年に卒業。原宿の美容室に就職した。 その美容室は、京都や福岡から男子高校生が髪を切るためだけに訪れたり、プライベートブランドのヘアワックスが商品化されていたりするほどの有名店である。 「入る前はワクワクしてました。憧れの美容師らと一緒に働けるって。芸能人と一緒に働くような感覚でした。でもイメージと実際はまったく違った。もう二度と美容師をやりたくないと思い、半年で辞めてしまいました」
大木さんもアシスタントとして美容師生活を始めた。人気店とあって仕事は忙しく、昼食のパンはいつも5分で食べていたという。当時の給料は手取りで約16万円。ボーナスはなかった。住宅は、友だち3人とのシェアハウスだった。 「スタイリストになるまで、ウチは平均4年と言われていました。『4年我慢すれば1000万円プレーヤーになれるから』と社内で言われ続けて……。25人いた同期のうち残っているのは10人以下です」 大木さんが辞めたのは、長時間労働にもかかわらず、給料が安すぎるためだった。アシスタントはマネキンやカットモデルを相手にヘアカットの練習を積んでいく。朝8時に出社し、退勤は夜10時過ぎ。“自主練”という形でもっと遅くまで残る人も多かった。 アシスタント時代はヘアカットのモデル集めも大きな負担だった。かつては街頭での「声かけ」でモデルを集めたが、今はインスタグラムなどのSNS。大木さんは「minimo」という、一般の人も使えるアプリをよく使った。無料や低価格でサービスを受けたい客層とカットモデルで練習して経験を積みたい美容師をつなぐアプリで、美容師やネイリストを含むサロン登録者は2021年11月時点で6万人超もいる。 「スタイリストになったときを見据えて、売り上げを立たせるには、自分のファンをいかにつくるかです。だからSNSで毎日発信して、自己ブランドを築き上げていくんです。休憩中はみんなスマホを触って動画を加工してました」