1日14時間以上働いても「手取り15万円」 美容師らの“苦境”
「美容師はみんな、『稼ぎたいなら独立して経営者になれ』と言われて育ちます。自然と独りよがりの経営になってしまう。だから、職場でパワハラも起きるんです」 海野さんは最初、東京のチェーン美容室でアシスタントを始めた。月の手取りは16万円弱で、アパートの家賃は6万5000円。暮らしに余裕はなかった。 こんな経験もある。ある日、社長に居酒屋へ来てもらい、「1万円上げてくれないか」と相談したところ、断られてしまった。その3カ月後、節税対策を理由に社長は高級車を購入し、従業員に自慢してみせたという。その瞬間、退職を決めた。「節税対策というなら、スタッフの還元をその前にできたはずでは」と不信感が高まったという。結局、海野さんは独立までに転職を3回経験した。そのうち2回は人間関係と労働環境の悪さ、賃金の低さが原因だった。美容師に見切りを付けようと、大手量販店のドン・キホーテで働いたこともある。 「美容室の経営者を対象に、経営を勉強する機会をすぐに設けるべきです。背中の見せ方を間違えている。新人の時の社長は『経営者になったらこんなこともできる。おまえらも頑張れ』というつもりだったらしい。似たような話は今も耳にします」 「他の業界では当たり前でないことが、この業界では当たり前なんです。有休を取らせない、パワハラやセクハラが当たり前の店もあります。国家資格試験も1960年代の髪形を指定したままだから、新人美容師はカットの即戦力には全くならず、新人美容師は入社直後の技術全般は即戦力には全くならず、『あいさつと掃除しかできない』と言われたりする」 自分のことしか考えない、従業員を大切にしない。そんな経営を続けていると、美容師のなり手がいなくなり、業界全体が衰退する――。海野さんの叫びは、きちんと届くだろうか。