1日14時間以上働いても「手取り15万円」 美容師らの“苦境”
美容室は全国で26万施設を数え、コンビニエンスストアの4.5倍もある。ところが、施設が増え続ける裏では、「長時間労働なのに給料があまりに低い」と悩む人たちがいる。朝8時から夜10時まで働いても、手取りで月15万円しかもらえないケースも珍しくない。美容師たちはいま、どんな状態に置かれているのか。改善の方向性は見えているのか。(文・写真:板垣聡旨/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「残業手当? 付くわけないじゃん」
2022年10月の金曜日。首都圏のターミナル駅から徒歩7分のカフェで、美容師の船木みずほさん(仮名)と会った。栃木県出身の28歳、都内の大手チェーンの美容室に勤めて8年目。中堅のスタイリストとして働いている。 入社同期は15人いたというが、今は1人。半数以上は3年以内に辞めてしまった。
「アシスタント時代の手取りは約15万円。年収は200万円台だったなあ……。店の休業日が週1日。月に4~5回は休みがあったけど、ずっと立ちっぱで。体力使う仕事だよ」 美容師は給料が低いと専門学校時代から認識していたものの、改めて薄給に驚いたという。同期みんなでハサミを買うためのローンを申し込み、入社早々に約10万円のローンを背負った。 「ハサミは1丁あたり、安くて2万円。高いと15万円を超える。人によって持っている本数も違うけど、私は2万円超えのハサミを全部で3本使っている。アシスタント時代は、朝8時にサロンに着いて雑用を済ませ、11時から営業開始。20時に営業は終わるけど、そこからマネキンやカットモデルなどで練習をしていた。サロンを出るのは22~23時が多かったかな。残業手当? 付くわけないじゃん」 船木さんが勤めていた美容室の場合、スタイリストになるには平均で2~3年かかる。中には8年かかった人もいた。船木さんは2年でスタイリスト・デビューを果たしたものの、年収は思ったほど上がらなかった。 「固定給で手取りが21万円ほどになったけど、売り上げノルマを課せられてしまって。結局、年収は大して変わらなかった。なんかさ、店の搾取も多くて……。年収を上げるには(年間の)売り上げ100万円分を達成しなければいけなかったし」 スタイリストの給料には歩合給が上乗せされる。店によって異なるものの、自分が担当した売り上げの10~20%が歩合給になる。月に50万円の売り上げを作ると、5万~10万円が固定給に加算される仕組みだ。美容師個人の売り上げで収入が上下するため、自分を指名してくれる常連客を囲い込んでおかなければならない。