「交通誘導員は最底辺の仕事だよ」「金があったらやらないね」…現場のシニアが自嘲するなか、ひとりの若手が「ここで働けて嬉しい」と語った深い理由
警察庁が今年7月に発表した「警備業の概況」によれば、全国の警備員の数は過去最高の58万4868人(2023年12月末時点)。このうち、70歳以上の働き手は最多の20.1%(11万7411人)を占めている。 【マンガ】高齢者の警備員が自嘲する中、若手が「働けて嬉しい」と語った深い理由 そんな高齢化が進む警備業のなかで主流をなしているのが、工事現場で誘導灯を振り、歩行者やクルマを案内する交通誘導警備員(以下、交通誘導員)だ。 68歳のときに交通誘導員として働き始めた柏耕一さんが、その内情を赤裸々に語った『交通誘導員ヨレヨレ日記』はベストセラーに。この話題書の漫画版『交通誘導員ヨレヨレ漫画日記』(漫画:植木勇、脚本:堀田孝之)も根強い人気を誇っている。 78歳を迎えたいまでも現役で働く柏さんの話を交えつつ、今回は同書から交通誘導員の「働く喜び」にまつわるエピソードを紹介する。 前回記事〈「そこのガードマンがまっすぐ進めるって言ったのよ!」…《嘘つきドライバー》に日々悩まされる「78歳シニア交通誘導員の悲哀」〉より続く。
同僚に質問してみた
「警備員の喜びって何ですかね?」 あるとき、柏さんは同僚たちにこんな質問をぶつけてみた。すると、以下のような答えが返ってきたという。 「年金が足りないから働いているんだよ。金があればこんな仕事するもんか」(田中さん、70歳) 「『人間は死ぬまで働け』が私のモットーです。我々の年齢で雇ってくれるのは、警備業界しかないですからね」(白石さん、73歳) 「孫にお小遣いをあげるのが喜びよ」(松本さん、72歳) 「日給が200円アップしたときは嬉しかったなあ!」(尾崎さん、66歳)
「喜びなんて求めちゃいけない」
仕事になにを求めるかは人それぞれだ。しかし、なかには交通誘導員という仕事をかなりシビアな目で見ている同僚もいる。77歳の紺野さんはそのひとりだ。 「喜び?そんなものはないよ。警備業は忍耐業です。我々には物を作り出す喜びがない。ただただ足が棒になり、寒さや暑さを耐え忍ぶだけ。イヤな親方や口うるさいドライバーも多い。警備なんてつらいだけの修行。私は仙人になったつもりで働いている」 69歳の宇梶さんはさらに辛辣だ。 「柏さん、警備は社会で最底辺の仕事です。喜びなんて求めちゃいけない。人間誰しも人に認められたいという欲求がある。そんな承認欲求が強い人ほど、早く警備を辞めるよね。警備で承認欲求が満たされることなんてないから」 総じて高齢の交通誘導員たちはあまりやりがいを感じていないようだ。だが、ある現場で出会った若手の答えは正反対だった。 「親が喜んでくれました。職に就けてよかったって。僕は長く引きこもっていましたから、こうして働けていることが喜びかもしれません」 ちなみに、78歳を迎えたいまでも交通誘導員として働く柏さんはこう考えているという。 「私も喜びを感じるような仕事ではないと思っています。生産性があるわけでもないですし。それに現場が変わるたび一緒に働く同僚も変わります。バックグラウンドや年齢の異なる人間といきなり同じ仕事をするのはやはり難しい。気が合わない人と何日も働けば大きなストレスになります」 ただそんなとき、柏さんは最後の長岡瞽女(ながおかごぜ)である小林ハルの言葉を思い出す。 「いい人と歩けば祭 悪い人と歩けば修行」 〈「あんたがちゃんと誘導しなかったからぶつかっちゃったよ」と迫るコワモテ運転手…誘導ミスをした交通誘導員がたどる「悲惨な末路」〉に続きます。
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