火星基地建設は現段階でも可能だ ── 日本火星協会・村川恭介理事長
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月を超えて火星、さらにはその先へ ── わたしたち人類は、一体、宇宙のどこまで行けるのだろう。惑星や衛星に住むならば、拠点となる基地の建設が必要になる。宇宙での建物の建築には、地球上とは違った難しさがあるのではないかと想像されるが、米国航空宇宙局(NASA)の研究者と月面基地や火星基地の研究にかかわった経験を持つ建築家で、現在は有人火星探査や火星居住にむけた研究を促進するNPO法人日本火星協会理事長の村川恭介氏は、課題はあるものの「現段階でも火星への基地建設は可能」という。
建築物は「皮膚の延長」である
「建築物」とは何か。わたしは「皮膚の延長」だと考えています。有史以来、人類は自分たちの身体が傷まず、快適に生きていけるように、試行錯誤を延々と繰り返しながら建築物をつくり続けてきました。 地球上だけではなく、人類が宇宙のような他の環境に行くならば、そこに適した皮膚の延長、つまり建築物が必要になります。そうした地球外の惑星や衛星上や宇宙空間に建造物を築くのが「宇宙建築」です。 地上の建築家には、土木建築分野はもとより、電気や空調、音響、各種材料、色彩の心理に与える影響など、実に幅広い知識が求められます。宇宙建築にたずさわる「宇宙建築家」にも同じことが言えて、建築物の知識だけではなく、必要な酸素の量や資材などの輸送手段、ロケットの燃料計算など、宇宙で建築物を構築する上で欠かせない幅広く膨大な知識が必要になります。 惑星や衛星に基地を作るとした場合、必要になるのは、どのようなステップを踏んで基地の設置を進めるのか、という全体の計画を定めたシナリオです。昔、米国で宇宙建築の研究に従事していた時、複数の宇宙開発関係のグループが米国政府に月面基地の計画案を提案していましたが、これらの案にはいずれも全体計画のシナリオが示されていました。 たとえば、月や火星に基地をつくるとして、資材の運搬などで何回も地球から飛ばねばならないでしょう。基地を完成させるまでに何を行い、何が必要になるのかについて、その持ちうる知識で緻密なシナリオを作り上げるのが、宇宙建築家に求められる仕事です。