火星基地建設は現段階でも可能だ ── 日本火星協会・村川恭介理事長
地球上の紛争を火星に持ち込まない
惑星や衛星への基地構築で、課題となるのは、放射線対策と、直径数mm以下の微小な隕石対策です。微小な隕石は無数に飛んでおり、宇宙服に穴が開くこともあります。対策としては、人間が居住するユニットを土やコンクリートで覆う方法や、ラバチューブ(溶岩が通った後に残されたトンネル状の空間)への居住が考えられます。 覆う土の厚さは1mもあれば、放射線や微小な隕石を十分防げると言われていますが、問題は、そのために大掛かりな土木工事が必要になることです。地上なら、ブルドーザーなどの重機を使いますが、他の惑星や衛星で覆土工事を行うには、こうした重機と同じ機能をもつ機材も運ばねばなりません。 現在の技術レベルで惑星や衛星に安全に住むためには、土の下で暮らすことになりそうですが、今後、軽量かつ薄厚な防護材が開発されるようなことがあれば、状況はまた変わるでしょう。 その他、地球から遠く離れた場所に住む際の心理的な影響への対策も必要になるでしょう。居住ユニットの設計にあたっては、色彩心理やコミュニケーションのあり方など心理面を考慮せねばなりません。エネルギー源の検討や、地球から遠く離れても治療を受けられる遠隔医療技術の進展も求められます。 とはいえ、宇宙空間での生活については、すでに宇宙ステーションで実現しているのです。課題はさまざまありますが、現段階でも火星への基地建設は可能です。あとはお金とやる気の問題でしょう。 現時点で、宇宙建築家という職業は、まだ確立されていません。わたしも現在、宇宙ではなく地上の建築関係の仕事をしています。しかし今後、火星などの惑星や衛星上に基地を作る際には、宇宙建築家の存在が必要不可欠になります。いつか、日本人が他の惑星や衛星への居住を目指す際に備えて、宇宙建築についての知見を書籍にまとめたり、諸外国の関連書籍を訳して出版するなどの活動に、時間の限り取り組みたいと考えています。 火星に行く宇宙飛行士は、地球上の国籍や文化を引きずらない優秀な人材が必要でしょう。おそらく幼少のころから火星に行くことを目指して技術面や科学面、そして文化面や心理面で多様で柔軟な教育を受けた人材が期待されると思います。さもないと現在の地球上の紛争を火星に持ち込むことになりかねないからです。