鉄道事業の分社化は小林一三イズムの終焉か 南海電鉄の新たな一手
南海電気鉄道(以下、南海電鉄)が鉄道事業の分社化を発表した。2024年10月30日に発表され、2025年の取締役会決議と株主総会の承認を経て、2026年4月に南海グループの鉄道事業会社が発足する。資本は親会社の100%出資となる。 【画像】鉄道会社はどうなる? 南海電鉄の特急「こうや」、沿線の生活イメージを印象づける東急、東京宝塚劇場にある小林一三像 これとよく似た事例が2019年の「東急電鉄」の鉄道事業分社化だ。このときは鉄道事業会社が「東急電鉄株式会社」の会社名を継承し、親会社は「東急株式会社」となった。この方式にならうと、新しい南海電鉄の親会社は「南海株式会社」になりそうだ。 余談だけれど東急電鉄の略称として「東急」が定着しており、「東急多摩川線」は路線名の正式名称になっている。だから親会社を示すときは「東急(株)」と呼んで区別するメディアもあるけれども、明確に使い分けられていないように思う。私が自動運転バスの記事を書いたときは「東急」とし、鉄道事業者は「東急電鉄」と書き分けている。 南海電鉄の場合は、鉄道事業会社が「南海電気鉄道株式会社」を名乗り、親会社が新たな会社名になるとみられる。南海電鉄の11月1日の報道発表で、国土交通省から泉北高速鉄道との合併が認可された。その報道発表で「2025年4月1日から泉北高速鉄道線は南海電鉄の泉北線として営業いたします」と宣言しているからだ。 おそらく南海電鉄の親会社も「南海株式会社」あるいは「株式会社南海」になるだろう。これがベンチャー企業なら「サウスオーシャン」とキラキラさせるかもしれないけれど、これでは何の会社か分からない。「東急」と同じように「南海」は強力なブランド名だ。分社化するけれどもブランド名は手放さない。グルーブの連携の糸をしっかり残すためだ。
なぜ分社化するのか
鉄道会社が本業であるはずの鉄道事業を子会社化する。まるで本業を切り離すように見えてしまう。しかし、それは「鉄道」という誰もが利用する分かりやすい産業だから特別に見えるだけで、企業全体から見れば本業の分社化は珍しくない。 豊田自動織機は繊維工業として創業したけれども、主力となった自動車部門を分社化してトヨタ自動車を設立した。日立製作所は久原鉱業所の機械修理部門が独立したもので、のちに創業事業の産業機器部門を日立産機システムとして分社化した。NECは電話交換機や通信機で創業し、そこに使う半導体事業で発展したけれども、後に半導体事業は分社化。かつて日本でトップシェアだったPC事業も分社化した。 分社化の利点には「節税」「リスク分散」「資金調達」「意思決定の迅速化」などがある。会社組織が大きくなると、現場が求める事項に対してハンコを押す責任の階層が増える。そのなかには専門外の人がいて、事情も分からず反対したり、決裁を後回しにしたりする。こうした「規模の不経済」を解消して、経営をコンパクトにすれば経営判断が速くなる。資金調達についても目的が明確化するため実行しやすい。 欠点は、管理部門の維持費が増えること。社屋を外に出せば費用が増えるし、本社に頼っていた管理部門も新たに設ける必要がある。人事制度が変わって、本社より待遇が悪くなる恐れもある。ただし業績が明確になるため、好業績であれば待遇が改善される。南海電鉄の分社化は、社員が全て本社からの出向になるとのことだから、待遇に差が出ることはなさそうだ。