「毎年絶対に参加しようと思っている」ピアニスト谷昴登さんに聞く“霧島国際音楽祭”の魅力
日本の国際音楽祭の草分けで、第45回を迎えた霧島国際音楽祭（鹿児島県、7月19日～8月4日）は、一流演奏家のコンサートに加えて、世界的音楽家を講師に迎えた「マスタークラス」が特色の一つ。これまで世界に羽ばたく演奏家を多く生み出している。キリシマ祝祭管弦楽団「春の祭典」（7月31日鹿児島公演・8月6日東京特別公演）にソリストとして出演した北九州市出身のピアニスト、谷昴登（あきと）さん（20）も本音楽祭が飛躍の原点だという。10代から国内の主要オケと共演し、現在はドイツで留学生活を送る谷さんに、音楽祭の魅力や演奏活動について聞いた。 （聞き手は、川口史帆） 【写真】ピアニスト谷昴登さん －音楽祭に合わせて帰国し、マスタークラスにも受講生として参加した。 霧島国際音楽祭だけは毎年絶対に参加しようと思っている。2週間の会期中、ハイレベルなコンサートをいくつも聴けて、濃密な指導も受けられる。ここまで充実した音楽環境に浸れるのはまれなこと。今年は約110人の受講生のうち4分の1が海外からの参加だった。出会いも含めて刺激になる、特別な場所だ。 －高校3年のとき、日本音楽コンクールで1位に輝いた。中学生のころから参加を続ける霧島国際音楽祭も一つの鍵となったのか。 講師の世界的ピアニスト、エリソ・ヴィルサラーゼ先生と出会って、ピアノに対する考え方が変わった。先生のピアノの扱い方は唯一無二で、思い付かないようなタッチやペダリングをし、全ての音に命を宿していく。進化を止めない巨匠から、毎年たくさん新しいものが得られる。 －キリシマ祝祭管弦楽団は約100人の大規模オケ。2度目の共演だった。 オケのコンサートマスターや首席など、素晴らしいアーティストたちとの共演は特別なこと。リストの「ピアノ協奏曲第1番」は各楽器とのやりとりが多い曲で、指揮者やコンサートマスターだけでなく、それぞれのパートと一対一でコミュニケーションすることを意識しながら演奏できた。今年は東京特別公演もあり、また一つ素晴らしい経験になった。 －アンコールのストラビンスキー「ペトルーシュカ」では、高い技巧と表現力の両方を聴かせた。 この曲は、「春の祭典」と、オケのアンコール「火の鳥」フィナーレと合わせてストラビンスキー三大バレエ音楽。リハーサルで「これだ」と決めた。元々オーケストラのための曲。管や弦などさまざまな楽器の音色を、どうすればピアノで豊かに表現できるか考えている。 －昨年秋からはドイツで留学生活を送っている。 合唱や古楽器など、新しい出合いがたくさんあって刺激的。これまでロシア音楽を深く勉強してきたが、楽曲やピアニストの系譜をたどるとドイツに行き着く。僕にとってドイツ音楽はなくてはならない。ドイツ語を勉強していて語学と音楽の密接な関係にも気付いた。建築物や美術作品など現地の文化にももっと触れて、学びを深めたい。 －8月11日には久しぶりに故郷の北九州で舞台に上がった。 地元は落ち着くし、北九州の魅力を再確認した。海が近く自然豊かで、門司港などには歴史的な建築もある。夏のお祭りには日本の「民俗」を感じた。クラシック音楽がさまざまな民俗音楽を取り入れているように、僕の音楽の中に取り込めることもある。故郷でも、音楽と「何か」の共通点を意識して、より豊かな音楽を見つけていきたい。
