[特集/フリック・バルサ徹底分析 03]1年目から3冠の可能性大 フリック・バルサはペップ・バルサの再来か?
好発進したフリック・バルサ クライマックスまで先は長い
さて、フリック・バルサである。主力の多くをカンテラ出身者が占め、各選手がオートマチックに連動してボールを動かす。監督就任1年目のフリックはバルサが持つストロングポイントを生かすべく、前任者であるシャビ時代から少しずつ経験を積んできた若い選手たちを積極的に起用し、ラ・リーガで開幕7連勝を飾った。 ペドリ、マルク・カサド、ダニ・オルモ、フレンキー・デ・ヨング、フェルミン・ロペス、パブロ・トーレなどを組み合わせて構成する中盤はテクニカルでバルサ独自のリズムで攻撃をビルドアップする。最終ラインにもパウ・クバルシ、アレハンドロ・バルデといった足元の技術力が高く、クラブ伝統のスタイルを熟知する選手がいる。 既存のスタイル+アイデア&パワーが必要な攻撃面には、生え抜きのラミン・ヤマルに加えて、ハフィーニャ、ロベルト・レヴァンドフスキなど決定力のある選手がいる。良質なカンテラ出身者が多い点はペップ時代に近く、突出した才能を持つ外様の選手がうまく融合したカタチはエンリケ時代を彷彿とさせる。ペップ時代、エンリケ時代との最大の違いはメッシがいないことだが、あまりに巨大すぎたメッシという才能がバルサのチームとしての姿をしだいに歪にしていってしまったことを考えると、現在のチームバランスはとても健全に見える。特別扱いされている選手はおらず、ラ・リーガですでに23人の選手が先発出場を経験したように、どの選手にも出場機会がある。この点はフリック・バルサの強みと言ってもいい。 ある程度のローテーションを試しながらもラ・リーガで首位をキープし、CLのリーグフェーズでは3勝1敗の勝点9で6位と決勝トーナメント進出に向けて悪くない順位につけている。シーズン序盤からこうした成績を残しているのは、過去2度の3冠達成シーズンとは違う。ペップのときはオートマチックに各選手が連動するまでにもう少し時間がかかり、ルイス・エンリケのときはもっと時間がかかっている。まずは、スタートダッシュに成功している。 3冠までの道のりは長く、12月になると国王杯が日程のなかに入ってくる。今季はCLが新方式のリーグフェーズとなり、例年より試合数が多い。ガビの復帰は明るい材料だが、ロナルド・アラウホ、アンドレアス・クリステンセン、エリック・ガルシア、マルク・ベルナルなどが負傷離脱中で、第13節レアル・ソシエダ戦では足首を痛めたヤマルも欠場となった。しかしベンチで腐っているだけの選手はおらず、どのポジションにも代役がいる。長いシーズンを、しかも3冠を視野に入れて戦ううえで、メンバーをガチガチに固定せずに良い成績をあげているのは好材料といえる。 就任1年目の監督のもと、若い選手が多い。通常ならいろいろと心配事が多いところ、それでも今季のバルサには期待できる。フリックは前任者からベースを受け継いだチーム作りでスムーズにシーズンインし、序盤で躓くことがなかった。このまま順調にいかなくとも、過去にバイエルンでブンデスリーガ、DFB杯、CLの3冠を達成したことがあり、過密日程を戦い抜いてすべてのタイトルを獲得する術を知っている。 若い選手たちにしても、すでにEUROや五輪で優勝を経験している選手が多く、大舞台の経験値は決して劣っていない。長いシーズンのどこで出力を最大にしなければならないかを心得ていて、第11節レアルとのクラシコではサンティアゴ・ベルナベウで4-0という快勝を収めている。 とはいえ、キリアン・ムバッペという強力なストライカーを得たレアルは試合をこなすごとに完成度を高め、勝点を伸ばしてくると考えられる。ラ・リーガの対戦相手はバルサとの戦いでは守備に神経を注いでくる。ソシエダ戦のように無得点に終わって勝点を取りこぼす試合が頻発するようだと、首位の座を明け渡すことになる。しかし欠点を修正し、持ち前の攻撃力をシーズン通して発揮することができれば、フリック就任1年目にしてリーグ制覇の可能性も大いにある。5月に入った第35節にはレアルとの2回目のクラシコがあり、ここでライバルを下して優勝というドラマティックなシナリオも十分に考えられる。 CLでは決勝トーナメントに入れば一戦一戦がメガクラブとの対戦になる。過去2度の3冠達成時はCLでも攻撃的なスタイルを貫いて頂点に立ったが、若い選手を軸とした今季のフリック・バルサがどこまで試合の主導権を握って戦えるか。リーグフェーズ第3節ではバイエルンを4-1で粉砕したが、いずれ決勝トーナメントではリヴァプール、マンチェスター・シティ、インテル・ミラノなどと対戦することになる。若いバルサがノックアウトステージで、本当にメガクラブ相手に互角以上に戦えるチームになっているのか、このときに答え合わせができる。 3冠のためには倒さなければならない相手が数多いて、メガクラブと戦うクライマックスはまだまだ先にある。このまま完成度を高めたバルサがどんなチームに仕上がり、どんな戦いをみせるのか。「自分たちは負けない」という自負を持ったバルサが戻って来るのか。決戦のときが来るのが楽しみでならない。 文/飯塚健司 ※ザ・ワールド2024年12月号、11月15日配信の記事より転載
構成/ザ・ワールド編集部