なぜ魔女はとんがり帽子をかぶってほうきに乗るのか、イメージのもとになった2人の魔女
王妃から老婆へ、容姿の変化
グリム童話を原作とする1937年のアニメーション映画『白雪姫と七人のこびと』には、古ノルドの魔術師グリムヒルデの要素が取り入れられている。このグリムヒルデは王妃の名前に使われている。 「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだれ?」高慢な態度で王妃が問いかける。このときの王妃は、「この世で一番美しい」という称号を得てもおかしくない美貌だ。 しかし、物語の終盤、王妃は魔女のような醜い老婆の姿になってしまう。この容姿の変化が、このキャラクターの大きな特徴だ。 「私がこびとの小屋に行くことにしよう。完璧に変装すれば誰も気づくまい」という王妃の変身モノローグが始まる。王妃の細い指先が本棚をなぞっていく。 一冊の大きな本をつかむと、「行商人に変身する薬」のページが開く。そこには材料が書かれている。「姿を老けさせるにはミイラの粉。服を覆い隠すには闇夜の黒……。髪を白くするには、恐怖の叫びをひとつまみ」 アーチ型の眉、血のように赤い唇、ありえないほど長いまつげ。やや鋭角的ともいえる美しい王妃の姿が杯(さかづき)に映り、王妃は魔法の薬を飲む。一瞬のうちに、王妃は観客の目の前で恐ろしいほどの変身を遂げる。 「白雪姫より、むしろ王妃のほうがはるかに興味深い」と語るのは、米ハーバード大学の民俗学名誉教授のマリア・タタール氏だ。「賢く狡猾で美しい王妃、それが老婆になってしまうのです。白雪姫だけにその姿を見せて、王妃は表舞台から消えてしまいます」 まずは艶のある黒髪が、ぼさぼさでハリがなく、もつれた白髪に変わる。手の指は骨と皮だけになって、関節はグロテスクな球根のような形になっている。かつてまっすぐだった姿勢は、だらしなく前のめりの猫背になり、「声が! 私の声が!」と叫ぶ声はかすれている。顔を覆っていた両手を下げると、まず、飛び出たような目が、次にわし鼻が現れる。鼻にはイボもある。ぽっかりと開いた穴のような口元には、歯が1本残るだけで、唇は外から見えない。