なぜ魔女はとんがり帽子をかぶってほうきに乗るのか、イメージのもとになった2人の魔女
「『魔女』は単なるワードではなく、アーキタイプであり、力強いイメージの集合体」
古代ヨーロッパの多神教に基づくウィッカを信仰するジャーナリストのマーゴット・アドラー氏は著書『Drawing Down the Moon: Witches, Druids, Goddess-Worshippers, and Other Pagans in America(月に導かれて:米国における魔女、ドルイド、女神崇拝者、その他の異教徒たち)』で、こう書いている。 ギャラリー:魔女のイメージをつくった「西の悪い魔女」と「グリムヒルデ王妃」 写真と画像4点 「『魔女』という言葉は、正確に定義されていないがゆえに強い力を持つ。『魔女』は単なるワードではなく、アーキタイプ(原型)であり、力強いイメージの集合体だ」 魔女とは何なのか、正確にはわからないこともあって、人は興味を持ち、恐れを抱く。魔女という言葉は幅広い意味を持ち、何千年にも渡って使われてきた。古くはギリシャ神話や聖書の中で、現代では米マサチューセッツ州セーラム(魔女裁判で有名)で売られているTシャツのプリントにも使われている。 神話や民間伝承、そして映画にたびたび登場する魔女。ここでは、昔も今も観る者の想像力を掻き立てる、映画に登場した2人の魔女を取り上げる。
ほうきに乗った老婆
米国映画協会が選んだベスト悪役の第4位は、『オズの魔法使い』の「西の悪い魔女」だ。映画の公開は1939年、まもなく1世紀が経とうとしているが、西の悪い魔女は今もなお、年代を問わず観客をぞくぞくさせる。 西の魔女が「典型的な悪役」のみならず、「魔女の代表例」とされる理由は何だろうか。その姿は、魔女の基準になっている。黒い帽子? もちろん、かぶっている。しかも、とても長く、恐ろしくとんがっている。わし鼻で、細くとがった顎にはイボがある。異様に長い指に、鋭い爪。そして全身の肌の色は明るい緑だ。 「おまえと、その犬の命はないからね」と、一語一語はっきりと発音する独特のしゃべり方で恐怖をあおる。そう言い残してぐるりと回ると、血のように赤い煙と爆炎の中に消える。 西の魔女は、ただほうきに乗るだけではない。ほうきから黒い煙をたなびかせ、緑色の唇から威嚇するような奇声を発しながら、空いっぱいに煙で「ドロシーを渡せ」という文字を描く。 このあと、空飛ぶサルの大群という、それまでの映画に登場した中で最も恐ろしい手下(動物のしもべ)たちが、魔女の命令通りにドロシーと愛犬トトをさらって飛び去っていくわけだが、そこまでの間に、西の魔女は、「魔女のイメージ」をすべて凝縮させたような描かれ方をされている。それ以降の映画に登場する魔女はそのイメージを尊重するほかないほどだ。 西の魔女は老婆だが、そうならなかった可能性もあった。『オズの魔法使い』のプロデューサーだったマービン・ルロイは、前年に公開されたディズニー映画『白雪姫』に登場した魅惑的な王妃を見て、西の悪い魔女も華やかな雰囲気にしたいと、ゲイル・ソンダーガードというエレガントな女優の起用を考えていた。 ところが、ソンダーガードが出演を断ったため、 マーガレット・ハミルトンがキャスティングされた。1938年10月10日、撮影開始のわずか3日前のことだ。緑のペイントがたっぷりと塗られた、魔女の中の魔女のイメージはこうして誕生した。