AIと「盛り」:プリクラやInstagramの「自撮り」を経て、未来の「美人」はAIが作るのか?
「盛り」と技術環境
「AI」を利用した画像処理技術は、どんな「盛り」を支援することになるのだろうか。「盛り」とは「デカ目」になることだけではない。「盛り」の対象は時代によって変化してきた。かつて、自分の顔画像を使って、実際にあったことのない他者とコミュニケーションできるのは、基本的には、芸能人のような特別な人だけだった。それを、一般の人にもできるようにしたのは「プリクラ」だ。ユーザーはすぐに「プリ帳」を作り始め、シールを交換して、貼って、見せ合った。プリクラは「顔」を撮影するマシンとして生まれた。だから「顔」を見せ合うコミュニケーションが始まった。必然と、「盛り」の対象も「顔」になった。この時代を私は「MORI1.0」と呼んでいる。 2000年に「カメラ付き携帯電話」が登場すると、手元の端末を用いた「自撮り」が始まった。2000年代後期には、無線通信の速度が向上し、「ケータイブログ」に「自撮り」写真を投稿することがさかんになった。携帯電話のディスプレイは小さく、目をカメラに近づけて「自撮り」することになる。ケータイブログでは、アイメイクを見せ合うコミュニケーションがさかんになった。「盛り」の対象は「目」になった。この時代を私は「MORI 2.0」と呼んでいる。 2010年にはiPhoneにフロントカメラが搭載される。その頃から「自撮り」は「スマートフォン」で行われるようになった。同年、Instagramが登場し、SNSによる写真の共有がさかんになった。スマートフォンのディスプレイは大きく、目をカメラから離して「自撮り」できる。インスタグラムでは、自分を含む「シーン」を見せ合うことがさかんになった。「盛り」の対象も「シーン」になり、「インスタ映え」という言葉も生まれた。この時代を私は「MORI3.0」と呼んでいる。 このように、「盛り」の対象は、それを囲む技術環境と共に変化してきた。具体的には、カメラのような「センシング」の技術と、「ディスプレイ」の技術の変化が大きく影響してきた。「AI」の技術は、そこにどのような変化を与えるのだろうか。 「AI」を利用してユーザーを「センシング」する技術で、すでに普及しているものはSNSの中にある。SNSは、大量のデータからパターンを学習し、それに基づいて、ユーザーの行動履歴から「好きなこと」を「センシング」している。Instagramが「大切な人や大好きなことと、あなたを近づける」というミッションを掲げているのは象徴的だ。それによってユーザーに適した広告を配信し、広告収入を得ているのだ。 「AI」を利用してユーザーが「ディスプレイ」する技術で、近年普及が進むのが画像生成AIのツールだ。代表的なものにDALL·E(*3)、Midjourney(*4)、Stable Diffusion(*5)などがあり、新たなツールも次々と公開されている。これらは、大量のデータからパターンを学習し、それに基づいて、ユーザーが自然言語(*6)で入力する「プロンプト(*7)」に応じた画像を「ディスプレイ」する。これらの「AI」技術を活かして、「盛り」の対象はこれからどうなっていくのだろうか。
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