「代理出産」は女性の搾取か?桐野夏生原作NHKドラマ『燕は戻ってこない』。女性だけが負う生殖のリスクを改めて考える
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。第70回は「生殖は究極の不平等」です。 * * * * * * * ◆現実でも起こり得るとてもリアルな話 日本で法整備がされていない「代理出産」をテーマにしたドラマ『燕は戻ってこない』は最後まですさまじいカオスっぷりで、久々にゾワゾワ・ゾクゾクする作品だった。 フルタイムで働いても手取り14万。コンビニでおにぎりを買うことすらためらうほど困窮した主人公の理紀が、生殖医療エージェントに登録、代理母として子どもができない裕福な夫婦と契約するストーリーは、現実でも起こり得るとてもリアルな話だった。 このドラマ、とにかく人物の描き方がすごい。すっごい嫌なやつがちょっとまともに見えてきたり、唯一のまともキャラだと思った人がサイテーな人間になり下がったり。毎話印象がガラリと変わる演出が素晴らしい。 中でも、主人公と契約する草桶夫婦の妻・悠子の変わりようは目を見張るものがあった。夫である基が、ある日相談もなしにエージェントに登録。「どうせ見つからないから」とか言うくせに、いざ代理母候補が見つかると、わかりやすく舞い上がる夫。代理母の卵子を使うから、自分の遺伝子は入らない子どもが生まれてくる。それを愛する夫が望んでいるという地獄。悠子はこの物語で最も可哀そうな人、だった。 元世界的バレエダンサーとしての自身の遺伝子を残したい基と、その母で同じくバレリーナだった千味子は、代理母をまるで「商品」だと思っている。こっちがお金を払うんだから、と代理母に様々な行動制限を設けようとしたりする。それに対して、代理母の身を案じ、ふたりを諫めるのが悠子だ。どこか欠落している登場人物たちの中で、唯一の「良心」みたいな存在だった。
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