天才 ラフ・シモンズはなぜ天才たりえるのか
デビュー時はカウンター型のデザインを披露し、デザイナーとして経験を重ねた2016年はフォロー型のデザインを披露し、一人のデザイナーが異なる二つの手法を実践する。ここに、天才と呼ぶにふさわしいシモンズの能力が垣間見える。
ジェンダーレスにアジアを組み合わせて新解釈した2018年春夏コレクション
2010年代に突入してからの「ラフ・シモンズ」は、フォロー型のデザインで秀逸なコレクションを製作しているが、もう一つ、シモンズが試みたフォロー型のデザインとして好例のコレクションがある。それが、ストリートウェアと同様に、世界の価値観を変えたジェンダーレスファッションを表現した2018年春夏コレクションである。 煌めく新しい才能が現れるロンドンに、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がデビューしてから、アンダーソンが提唱する性別を超えたファッションが新たな価値観として世界中に浸透していく。アンダーソンの登場以降、メンズとウィメンズを同時発表するブランドも一気に増加した。ストリートウェアのデムナ、ジェンダーレスのアンダーソン、この二人が2010年代に与えた影響力は驚異的で、両者はまさに時代を切り拓いたデザイナーだったと言える。 2016年秋冬コレクションではストリートウェアの新解釈を見せたシモンズだが、2018年春夏コレクションではジェンダーレスの新解釈を披露する。 ショー会場に選ばれたのは、ニューヨークのチャイナタウン。この2018年春夏コレクションは、バンコク・ソウル・ベトナムにあるチャイナタウンや歓楽街、映画監督リドリー・スコット(Ridley Scott)による作品「ブレードランナー」(1982年公開)、シモンズが愛するバンド「ニューオーダー(New Order)」からインスピレーションを得て製作された。 紫色に妖しく光るネオンが、まさにアジアの夜の街を連想させる。会場を訪れた観客は、ランウェイの両端に密集した状態でスタンディングしてショーを観戦し、地面は濡れた状態に演出されていたために、ランウェイは路地裏とも言うべき雰囲気へ変貌し、いっそうカオスな夜のアジアを色濃く表す。 先ほど述べたとおり、2018年春夏コレクションはジェンダーレスが重要な要素になっているのだが、アイテムはテーラードジャケットやコートなど重厚なアイテムが数多く登場し、色使いもシックで、主役はあくまでもメンズアイテムだ。 シモンズは2018年春夏コレクションで、ロングスカートと思えるアイテムを登場させるが、そのスタイルにはアンダーソンが2013年秋冬メンズコレクションで発表した、フリルショーツを男性モデルが穿くスタイルほどフェミニンな印象はない。 しかし、それでもこのコレクションにはジェンダーレスの側面が感じられてくる。理由の一つにシルエットが挙げられる。細さと長さを強調したシルエットに、日本の江戸時代の町民が着用した着流しが思い浮かび、怪しいネオン煌めく会場の雰囲気が、オリエンタルな服装イメージをより強めていく。 右手に傘を持ち、左手に「NEW ORDER」のロゴをプリントした提灯を持つ姿は、400年前の日本の風景が再現されたかのようだ。オーバーサイズのジャケットやコートのルックに混じり、着流しシルエットが幾度も登場する。 着流しとは、着物に帯を絞めただけのカジュアルな着物になり、男性が着るものだった。しかし、痩身のルックを見ていくうちに、しなやかで滑らかなラインだけが持つ艶かしさが、女性美を生み出していることに気づく。 また、シモンズは肩をはだけさせた着こなしで色気も匂わすのだが、そのスタイルはニット&パンツという、メンズライクな装いだ。 たとえばアンダーソンがジェンダーレスを具現化する際、女性の服装において伝統的なディテール・素材・アイテムを、男性モデルに着用させるストレートな手法が散見される。 だが、シモンズはロングスカート的アイテムを発表するのみで、ウィメンズウェアの要素を直接的にはほとんど用いていない。あくまでトラディショナルなメンズウェアをベースに、女性美を立ち上げているのだ。ルックの中には、メンズウェアでは珍しいコクーンシルエットをコートに取り入れたルックもある。 ウィメンズウェアならではの服をダイレクトに使用するのではなく、伝統的な男性のアイテムとスタイルを用いて、ジェンダーレスを表す。その手法は、性別関係なく着用された東洋の歴史に刻まれたシルエットと、コクーンシルエットのコートや肩をはだけさせたニットの着こなしなど、トラッドなメンズアイテムをベースに色気を表現したもの。