うちの凸凹-外科医と発達障害の3人姉弟-「そんな子、今まで見たことがない」透明化される子どもたち
人間は、自分に関係のあるものしか見えないことがある
人間は、他人の困りごとに鈍感です。発達障害の症状として「他者への共感性が低い」と表現されることがありますが、「人間は、そもそも他人への共感性が低い」のではないかと思っています。 私が、子どもが生まれてから一番驚いたのは、「街にはこんなに子どもがいる」という事実でした。ずっと同じ街に住んでいたのに、自分自身が父親になった瞬間、今まで見えなかった子どもとその父親・母親がたくさん見えるようになったのです。 これこそが、人間の共感性の低さです。 人間には、自分に関係のあるものしか見えないところがあります。だからこそ、 「よく分からないけど、こういう人いるな」という心の余力が必要です。 こういった感覚は医者の世界でも大事にしている意識の一つです。 例えば、2005年にピロリ菌の発見についてノーベル賞を受賞したオーストラリアの医師がいました。それまでも胃がんの人の胃粘膜には変な菌がたくさんいることは、実は病理診断を担当する医師の間では知られていました。ですが、その変な菌が胃潰瘍の原因にもなりうる菌だと分かり、さらにはノーベル賞レベルの研究になったことに、我々医師は驚いたのです。 普段何気なく見ているものの意義などに気付けなくてもいい。ただ、自分が知らない・理解できないことを透明にせずに、記録や記憶をしておくことが大切ですね。
あの人には簡単にできるのに私にはどうしてもできないこと、その逆のこと。そんなことは意識して見つけようとしてみれば山ほどあります。その時に意識したいこと。 「自分ができるけど他人ができないことは意識に残りにくい、透明化されがち」 透明化され続けてきた人たちが、「特性」と言われて存在が認められるようになり、世の中の流れが大きく変わりつつあります。可視化され、次は対策が少しずつ整っていく過渡期が今です。 何気なく見ている人の行動のなかに、意外とビッグチャンスや子どもの困りのヒントが隠れているかもしれませんね。何事も透明化せず、自分の中に意味を見つけると少し大きな世界が見えてくるかもしれません。
外科医ちっち(げかいちっち) 外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。 ・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」 ・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」 ・Note: https://note.com/titti2020/ ・Twitter: @surgeontitti