なぜバドミントン日本代表は強くなったのか? 成果上げた朴柱奉ヘッドコーチの20年と新時代
どの国にも事情はある
強化のために正論を説いた朴だったが、日本の現状、実態を無視して強引に代表ファーストを推し進めたわけではなかった。実業団側に物を申す立場ではあったが、選手が日常的にフィーをもらっているのは会社であり、企業の支えなしに日本のバドミントンは発展していかないことは理解していた。 現役時代、“ダブルスの神様”と呼ばれていた朴は、ダブルスは選手の組み合わせにこそ妙があると思っていた。しかし、所属チームが異なるペアの組み合わせはタブーだった。 「それは諦めたよ」 変な習慣だとは思っていたようだが、ダブルスのペアの連動やプレーの呼吸は長い時間を掛けて熟成させていていくものだ。「ペアで1チーム」である以上、日本代表ペアが実業団チームでもそのまま同じチームで戦えた方がいい。実業団対抗の側面がある国内大会で所属企業が異なるペアが出場することはない以上、そこは諦めるしかなかった。
専用練習場NTCの誕生と強化合宿
朴を招聘した協会にも長期的な展望があった。 「なぜバドミントン日本代表は世界と戦えるようになったのか?」という問いの大きな理由の一つが、2008年1月から供用を開始したナショナルトレーニングセンター(NTC)の存在が挙げられる。 NTCに新設されたバドミントン専用体育館は、公式コートが10面取れる広さ。シャトルが識別しやすいように黒く塗られた天井など、完全バドミントン仕様の専用コートだが、施設の機能よりもうれしかったのが、日本代表のための常設の練習環境ができたことだった。 「これで6時半からでも練習ができる」 朴は日本代表の強化には、日本のトップレベルの選手が日本代表の一員である自覚とプライドを持ってプレーすることが不可欠だと考えていた。 文字通り日本を代表する選手が「日本代表」という一つのチームとして切磋琢磨することが、2006年のトマス杯、ユーバー杯で明らかになった期待を力に変えるメンタリティーの欠如、技術を勝利に結びつける戦い方を学ぶ近道だと考えた。 NTCという“日本代表を象徴する場”ができたことで、若手選手や全国の中高生をピックアップする合宿も定期的に行われるようになった。選手を探し、育て、日本代表の選手としてさらに磨き上げる。その活躍が競技人口の増加、さらなる有望選手の登場につながる好循環のループが始まっていた。