「何やってんだ、貴様!」順大・澤木啓祐監督が激怒のワケは? 24年前の箱根駅伝…“紫紺対決”最終盤で起きた超異例「2度の首位交代劇」ウラ話
近年は往路に主力ランナーを固めるチームがほとんどだが、かつては復路にエース格を置くチームも多かった。中でも“逆転の順大”と“復路の駒大”と呼ばれた2校が、箱根路で最も熾烈な優勝争いを繰り広げたのが2001年のこと。最終盤で起きた2度の首位交代のウラには、はたしてどんな秘話があったのだろうか。《全3回の2回目/つづきを読む》(初出:Number PLUS/2013年12月2日発売 肩書などはすべて当時) 【激レア写真】「こ、これはコワそう…」順大黄金期を率いた澤木啓祐監督「メガネの奥の笑ってない眼」…2001年箱根の“紫紺対決”での大激闘&「箱根名ランナーギャラリー」も見る 振り返る必要などない――。逃げる高橋謙介がそう考えていた理由は3つあった。 「最初の5kmを14分19秒で入ってる。(区間新を出した)2年生のときが23、24(秒)ぐらいだったので、いいペースだったんです」 それが、1つ目の理由だった。 高橋正仁とは対照的に現役時代と変わらぬほっそりとした体型を維持していた謙介は今、トヨタ自動車の工務部に勤めている。 2つ目の理由は、「力は自分が上と思っていた」。自惚れではない。それは周知の事実だった。 そして、3つ目。7区を終えた時点で、順大と駒大の差は2分47秒あった。その差が8区だけで28秒にまで縮まっているとは、よもや思わなかったのだ。 「アップをしながら、詰められているという情報は入っていたけど、最低でも分単位の差はあると思っていました」 情報伝達のミスといえばそうだが、謙介にわざわざ伝える必要はないと思っていたのではないか。むしろ、周囲は後続を突き放してくれるものだと思っていたのだから。
「高橋謙介が9区」という区間配置の意味
「9区・高橋謙介」。このオーダーを組めることこそ、順大の強さの証明だった。 前年に続き2区を走りたい思いもあった。しかし、監督の澤木啓祐に2区と9区のどちらがいいかと聞かれ、自ら9区を希望した。 「何が何でも3冠を達成したいというのがありましたからね。9区に自分がいた方が他のみんなも楽に走れるだろう、と。9区に不安を抱えているのと、大砲を置いておくのでは、安心感がぜんぜん違いますから」 9区に謙介を配置しているのは、トドメの武器であり、保険でもあった。その意味では2分差も28秒差も同じだったのかもしれない。 ところが、である。6km過ぎ、沿道にいたコーチが奇妙なことを言った。 「後ろにすぐ来てるぞ!」 謙介は混乱した。 「え? って。なんで? って」 でも、まだ後ろは向かなかった。しばらくすると雰囲気で走者がすぐ後ろに近づいてきたことがわかってきた。左90度の方向に長く伸びた影でも正仁の接近を確認できた。 「ほんとに来てるんだ、って。テンパりましたね。は? って」 7.2km地点で謙介は続けざまに二度、真後ろを振り向いた。二度目はまるで現実が信じられず、改めて確認したようにも見えたが、それ以前に気配は察知していたという。その証拠に謙介は正仁を背後に感じた瞬間、ペースを緩めている。 「相手が一気に抜きにきたときに対応できるように、って考えたんです」 だが、これが正仁への助け船になった。
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