【後篇】過走行の初代カングー・ブラザーズ座談会 初代カングーは古典的フランス車の最終進化形! やっぱり大事なのは、走る、曲がる、止まるだ!!
まだまだ直して乗りますよ!
エンジン編集部の長期リポート37号車の担当シオザワ、新潮社校閲部の隠れフランス車好きのイシカワ、ヤフオク7万円のシトロエン・エグザンティアの代車でたまたま乗っている編集部ウエダ。3人のオーナーがあふれる「初代カングー愛」を語るシリーズの【後篇】。ムック本の『ルノー・カングーのすべて』で現地取材も行ったことがあるモータージャーナリストの佐野弘宗とともにドライバーズカーとしてのカングーの魅力に迫った。 【写真33枚】スズキのディーラーで9万キロ48万円で買った5MTのカングー、28万キロのオーバーホール済みエンジンのカングーも絶好調! ◆初代モデルがいい シオザワ カングーといえば、この間まで現役だった2代目も人気があるけれど、個人的にはやっぱり初代のほうが乗ってて楽しい。 ウエダ それはカングーに限らず、初代というのも重要なのかもしれない。初代は2代目と比較すると、サイズは小さいけれど、いろいろなところがマージンを持ってつくられている気がする。世代が進むにつれて、過剰な部分が省かれていく。 サノ あと、初代カングーはリア・サスペンションに、20世紀のフランス車が連綿と使ってきたトレーリングアーム式を使っている。この後の2代目カングーを含む現在のルノーのそれは国際的に主流のトーションビームだから、初代カングーは古典的フランス車の最終進化形でもある。 シオザワ 確かにルノーの走りは年々普通になってきている感があるけど、このあたりが分かれ目か。 ウエダ イシカワさんも、昔からフランス車好きだったんですか? イシカワ 若いころにシトロエン2CVやBXに乗っていました。でも、子供を乗せるファミリー・カーとして買ったBXがトラブルがちで、最後はATが壊れて家族が激怒。以来、イシカワ家ではフランス車が絶対禁止(笑)となって、国産車に乗り換えました。でも数年前、老母を病院に乗せて行くため実家に置くクルマが必要になったんです。軽自動車でもなんでも良かったけれど、運転するのが自分だけなので、せめてMTを……と探していたら、スズキの販売店でこのカングーに出会ってしまったんです。ずっと憧れていた初代カングー。2008年型の5段MT。走行9万kmで48万円。当時の相場としても格安。国産ディーラーなので持て余していたそうで、現状渡し。 ウエダ イタフラ車あるある! シオザワ ドライバーズ・カーというと普通はスポーツカーをイメージするんだけど、イシカワさんの場合は、クルマの運転に目覚めたのが2CVだったわけか(笑)。 イシカワ ハハハ。でもカングーは本当に便利で楽しいクルマです。粗大ゴミのソファ2本とテレビ台を同時に積めたのも驚きでした。東京から岐阜まで園芸に使うウッドチップを買いに行ったこともありました。まとめ買いした120kgのウッドチップを積んで、時間もあったので、下道の中山道と甲州街道、青梅街道をひたすら走って帰ってきたのですが、本当に楽しくて楽しくて……。こういう時には、まさにドライバーズ・カーだと思います。 シオザワ その気持ちは分かる。僕も趣味で自転車をやっていて、イベントなんかだと朝3~4時に出発して、自転車を積んで300km先の会場までスタートに間に合うようにとにかく急ぐ。でもって自転車で山坂道を70kmとか走って、またカングーで戻ってくる……なんてことがよくある。そういう時に初代カングーほどピッタリのクルマはない。 ウエダ 初代カングーは絶対速度は高くないのに、なぜか速い。ATのギアリングと高めの回転域にピークを寄せてあるトルク特性が効いている。 シオザワ カーブでもスピードを落とさなくていいから、アベレージ速度が高いんだ。それに、こんな小さなサイズなのに高速ですごく安定していて、疲れないから休憩も最低限でいい。唯一の問題は燃費があまり良くないことかな。 ウエダ それはATが4段という理由もある。イシカワさんのカングーは5段MTで燃費もいいのでは?イシカワ 国道を40~60km/hで5速入れっぱなしで走って、平均18km/リッター以上記録したことがあります。 シオザワ 高速でアクセル・オフした時なんかに「空気抵抗がデカいなあ」と実感するのは否定できない。だから、速度が低い一般道の方が燃費がいいのかもしれない。 サノ そうやって荷物を積んで高速や国道を一定速度でひた走る……なんて使いかたでカングーは光る。 シオザワ それだけじゃない。高速のジャンクションやインターにある、奥にいくほど深く曲がりこむようなカーブでは、いまだに「え、まだステアリングが切れるの?」と驚くよ。けっこうな速度で切り込んでいっても4輪ともピタッと路面に張り付いてびくともしないんだから。 ウエダ 僕は首都高の中央環状線内回りから2号線が通勤の帰り道で、仕事がら、そこをいろんなクルマで走る。途中に大半のクルマが跳ねてしまう自分なりのチェック・ポイントがあるんだけど、初代カングーはそこで絶対に跳ねない。 サノ アシが柔らかいのにキツネにつままれたように粘るのが、昔ながらのフランス車の真骨頂だ。 ウエダ 初代カングーのパワー・ステアリングが今ではほとんど姿を消した油圧式ということもあって、最近のクルマにはないナマ感覚のステアリング・フィールも残っている。 シオザワ カングーには、とにかく大荷重で、高速を走らなければならない、加速もして、コーナリングもして、ブレーキもかけなければならない……ということを安全にクリアする基本設計のベースがある。 ◆直せば走りも戻る ウエダ 僕が借りていた黄色いカングーは、外装の塗装や足まわりやパワートレインにひととおり手を入れてあって、日本では完全な過走行の28万km弱という走行距離でも、コンディションはまったく問題ない。 シオザワ 編集部所有の銀色のカングーもすでに14万km走って、ブッシュ類はフロント側はほぼ全交換。あと鬼門の4ATは電磁バルブをいくつか交換してるけど、ダンパーやボディはそのままだ。 イシカワ 僕のカングーは今11万kmですが、手を入れたのは同色のリア・バンパーやドア・ミラーを「ホルツ」のスプレーで自分で補修したくらい。ホルツではほぼどんな欧州車の純正色も用意されている。 ウエダ 初代カングーは基本設計がタフだから、きちんと手を入れるだけでドライバーズ・カーとしての走りが戻るのがいい。MTもATも、結構な数が正規輸入されていて、今回の3台のような後期型なら、まだまだ相場も手ごろで、タマ数も残っている。ただ、そろそろ直すにはお金もかかる年ごろに入りつつあるし、部品代も安価なクルマではない。この稀代のドライバーズ・カーで気軽に楽しむのも、今がラスト・チャンスかも……という気はする。 イシカワ 母の介護が名目のカングーでしたが、今後も乗り続けます。 話す人=塩澤則浩(ENGINE編集部)+上田純一郎(ENGINE編集部)+石川芳立+佐野弘宗(まとめも) 写真=阿部昌也 (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部
【関連記事】
- ルノー・カングーが編集部の長期リポートに復帰しました!【エンジン編集部の長期リポート37号車:ルノー・カングー(2007年型)#1】
- エンジン編集部のちょっと古いカングー、ハンドルがブルブルして困ってます!【エンジン編集部の長期リポート37号車:ルノー・カングー(2007年型)#3】
- 2代目ルノー・カングーを仕事の道具として使い切る! 絵画保存額装家のオーナーのプロ目線のクルマ選びに思わず納得!!
- 仕事も遊びもカングーです! 自転車の楽しさを伝えるバイク・ショップ、I.D.E.STOREのオーナー・井手勝さん 5台は余裕でいけます!
- メンズ・ファッション誌の編集長がハマった、カングーのキャンピングカーで楽しむ自由気まま旅!