なぜ女子スピードスケート1500m銀メダルの高木美帆は金メダルへ「0秒44」届かなかったのか…「悔しい…本当にそれだけ」
オランダ勢が女子1500mの表彰台を独占した2014年のソチ冬季五輪。その真ん中に立ったヨリン・テル・モルスの1分53秒51を、当時の銀メダリストだったブストが0秒23更新した瞬間から、高木が超えるべき数字が明確になった。 もっとも、氷質が重く、スピードが出にくい今大会のリンクには多くの選手が苦戦を強いられている。1分49秒83の世界記録を持つ高木も例外ではなく、5日の女子3000mでは思うようにスピードに乗れなかった序盤が響いて6位にとどまった。 心の片隅に不安や焦りも抱えていたなかで、五輪記録をさらに更新しなければ頂点に立てない状況が生まれた。今シーズンのワールドカップで出場3戦全勝。金メダルに最も近い存在と呼ばれた高木は、それでもすべては自分次第だと言い聞かせ続けた。 「どの選手がどんなタイムを出したとしても、私がベストを尽くすことに変わりはないと思っていたので。それ(ブストの記録)に対してのプレッシャーであるとか、そういったものを感じていたわけではないですね」 北京入り後の新型コロナウイルス検査で陽性と判定され、隔離されている日本代表のヨハン・デビット・コーチから「調子や滑りそのものは悪くない。気持ちを強く持っていけ」と檄を飛ばされた高木は、スタートから積極果敢に飛ばした。 実際、最初の300mを出場した30人のなかで最も速い25秒10で通過した。ちなみにブストは25秒51だった。700mの通過タイムも高木がブストを0秒11上回っていた。しかし、実はこの時点で懸念すべき数字が弾き出されていた。 好スタートを踏まえれば、300mから700mのラップで27秒台後半をマークしておきたかった。しかし、実際は28秒16にとどまり、ブストの27秒86に上回られている。次の400mのラップも、高木の29秒24に対してブストは29秒10だった。そして、この時点でわずか0秒03差ながら通過タイムもブストにリードされている。 選手は誰でもラップを重ねるごとにタイムが悪くなる。その落ち幅を最小限にとどめる滑りを追い求めてきた高木だったが、リンクに苦しめられ、さらに序盤から飛ばした影響も追い打ちをかける。2日前の3000mの疲れも残っていたのかもしれない。 最後のラップは31秒22と2秒近くも遅くなり、30秒81でしのいだブストに、最終的には0秒44と決して小さくはない差をつけられた。0秒20差で決着がついた4年前と比べて文字通りの完敗だったと、高木は潔く認めている。 「前回もそうなんですけど、今回は特にブスト選手に完敗しました。すごく強かったし、このハイレベルな時代に戦えたことを同時に嬉しく思っています」