三井物産サラリーマンから落語家へ転身 立川志の春の仕事論 「落語はビジネスに役立つのか?」にアンチな理由とは
古典落語が海外でもウケる理由
ここまでの話を聞いて「落語を聴いてみたい」と思ってくださった方には、古典落語をおススメします。
私は英語落語もやるのですが、海外の方に伝わるのは圧倒的に古典落語です。なぜなら、普遍的なテーマがあるから。 300年の時間の流れとともに淘汰された落語がたくさんあるなか、今の時代にも残っているのが古典落語です。 300年前の日本人が笑っていた話が、時代を超えた今でも面白い話として残っている。だから文化的な背景が違う海外の人でも理解でき、笑ったり涙したりできるのだと思います。
一方、新作落語は時代性や扱っているテーマは身近ですけど、ローカルな内輪ネタになりやすい面があります。 会社の講演会で、社長の悪口や社内の人間の話をするとウケるじゃないですか。それと一緒で、落語を知っている人にとっては強烈にウケるけど、知らない人にとってはさっぱりわからない、なんてことが起きる。 そういう意味で、初心者にとって新作落語は理解するのが難しいことが多いかもしれません。今の新作落語の中にも、ひょっとしたら未来の古典落語になり得るものがあるかもしれないですけどね。
世間の評判ではなく、自分の直感で落語を選ぶ
最後に一つ。落語は演者との相性も大きいので、1回聴いただけで結論を出すのはお待ちいただきたい。同じ話でも演者によって印象は変わりますし、誰かしら自分に合う演者がいるはずです。 ぜひ世間の評判を取っ払って、自分の直感に身を委ねてみてください。 最近は飲食店でも映画でも、何でも口コミで数値化されています。でも、全ては人がつけた評価です。自分がどう思うかはわからない。 また、年齢を重ねるにつれて自分の好みがよくわかってくるわけで、その結果、自分が触れるものの範囲も狭くなってくると思うんですよ。 だからこそ、普段自分がやらないようなことや「これってどうなんだろう?」というハテナにしたがうことが必要なのではないでしょうか。 ハズレを引いたっていいんですよ。落語では失敗談が笑いになると話しましたが、とんでもなくまずい店に入ったり、ひどい映画を見たりしたほうがネタになりますからね。 私がふと見かけた独演会をきっかけに落語にどハマりし、この世界に入ったように、コスパから離れたところに、長期的に見て最もコスパが良いものがあるのではと私は思います。
落語にも「〇〇という落語家が面白い」といった情報はたくさんありますが、それはさておき、ふと見かけた落語会や独演会に思い切って入ってみる。そこに何か新しい発見があるかもしれません。 特に「立川志の春」と書いてあるところに入ってみると、良いことがあるんじゃないでしょうか。 取材・文:天野夏海 撮影:大橋友樹 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio) 編集:奈良岡崇子