深圳・男児刺殺事件と「日付」のタブー――日本人が気付いていない現代中国の歴史感覚
「中国版・無敵の人」と愛国反日ブームが混合
中国側の過剰な反応は、いわゆる「反日教育」や、現地のテレビで常に流されている抗日ドラマ(検閲をすり抜けやすいこともあり粗製乱造されている)の影響が理由として説明されることが多い。ただ、特に近年のソニー事件や日本人学校児童の襲撃といった事態については、さらに別の要因もある。 2010年代なかば以降、習近平政権下で愛国主義イデオロギーと言論統制が極度に強化されたことや、コロナ禍を境に強まった中国世論の内向き化や経済減速による閉塞感、さらにこうした風潮なかで「反日ネタ」や日本関連の陰謀論(日本人学校がスパイの拠点であるなど)でインプレッション稼ぎをおこなうネットのプラットフォームや個々のネットユーザーが増加したこと……。と、各種の要因が複合することで、中国のネットは「愛国暴走」にはしりがちな傾向を強めている。 今年、7月7日を控えた6月下旬に江蘇省蘇州市の日本人学校のスクールバスを待つ母子が男に刃物で襲われ、それをかばったスクールバス乗務員の中国人女性が死亡した事件や、9月18日に広東省深圳市の日本人学校で発生した通学中の児童の刺殺事件などは、いずれも中国当局は事件の背景を明確にしていないものの、こうした昨今の風潮から影響を受けた人物による犯行だとみられる。 近年の中国ではもともと、いわゆる「中国版・無敵の人」(将来の見込みがなく失うものを持たない人)による児童殺傷事件や学校襲撃事件が年に何度も起きているのだが、これとネット上の愛国反日ブームが混合することで、日本人児童を襲撃のターゲットにする事例が増えているのだ。 経済の減速によって国民の不満が高まるなか、当局はこれまで国民をコントロールするために活用してきた濃厚な愛国主義を容易に撤回することもできない。類似の日本人襲撃事件は今後も起きる可能性がある。とりわけ、7月7日と9月18日、12月13日の前後は、中国に滞在する日本人は最大限の注意が必要だ。