深圳・男児刺殺事件と「日付」のタブー――日本人が気付いていない現代中国の歴史感覚
ソニー、パナソニックが踏んだ「日付の地雷」
近年のビジネスの世界での話から先に述べよう。2021年初夏、ソニー中国が新製品の広告をネットにアップしたのだが、その製品発表会の日が7月7日。盧溝橋事件の日であるだけでなく、さらにリリース開始の時間帯が事件の発生時間と近い「午後10時」だったことで中国側のネットで大炎上し、製品の発売日の延期を余儀なくされた。 これだけなら、日本でもときにみられるネット炎上事件だが、中国の場合はこの先がある。同年10月、北京市の朝陽区市場監督管理局は、中国の広告法第9条の「国家の尊厳を損なう」という法令に違反したとして、ソニー中国に同法の上限にあたる罰金100万元(約2000万円)を科したのだ。ソニー中国側は単に7月7日に新製品を発表しようとしたという理由だけで、この決定を受け入れることになった。 また、2020年9月18日には浙江省杭州市にあるパナソニックの中国法人に勤務する中国人従業員が、WeChat(中国で普及しているチャットソフト)のモーメンツに「918勿忘国恥」(国家の恥を忘れるな)のスローガンが書かれた画像を投稿。中国人上司からこの行為を叱責されたことを理由に退職後、従業員側が上司とのWeChatの会話のスクリーンショットをネットに公開した。結果、ネットで炎上して製品のボイコットが呼びかけられたことで、パナソニック側が謝罪に追い込まれる事態となっている。 近年の中国において、一連の日付が非常にリスキーな意味を持つことは明らかだろう。やや古い話だが、より深刻な国際問題もある。民主党政権下の2012年、尖閣国有化問題に関連した日本側の動きだ。当時の野田佳彦総理はわざわざ7月7日に、それまで私有地だった尖閣諸島の国有化方針を表明、さらに満洲事変記念日直前の9月11日に島の土地の購入をおこなった。 当時の中国は対日姿勢が比較的穏健な胡錦濤政権だったが、中国側は日本側の日付の選定に必要以上の敵意があると解釈。中国各地で日系企業の破壊をともなう大規模な反日デモが発生することになった。