多くの人が速すぎる…適正な速さは、なんと「駅の階段10秒で5段」の遅さ…下山後の疲労が激変するはず
ゆっくり上れば疲れない
図「一般登山者の登高速度の実態」を見てください。これは、筑波山、六甲山、久住山といった人気の高い山で、典型的な上りの区間を、一般の登山者がどれくらいの速さで上っていたかを調べたデータです。40歳以上とみられる、中高年の男女400名以上について観察したものです。 男性では600m/h、女性では500m/h前後で上っている人が最多です。図「軽装で山道を上る場合の登高速度と運動強度との関係」と対応させると、男女ともランニングに相当する運動強度で歩いている人が最も多いのです。体力が十分にあればこのペースでも問題はなく、実際に楽そうに上っている人も多くいましたが、反対にかなり息を切らしている人も少なからず見受けられました。 つまり、もっとゆっくりしたペースで上れば疲労しないものを、わざわざ速いペースで歩いて、つらい思いをしたり、疲労したりしている人が多いのです。「ゆっくり上ろう」とはよく言われる登山の初歩的な心得ですが、これは簡単そうでいて、実際にはなかなかできないことなのです。 速いペースで歩くと、心臓に故障を抱えている人(本人も自覚できていない潜在的な場合も含めて)では、心臓疾患を引き起こしやすくなる、という問題もあります。6メッツ台までの運動強度ならば発症は少ないのに対し、7メッツ台の強度で運動すると発症率が高まることが知られています。このことは、ジョギング中やランニング中、また市民マラソン中などに、心臓突然死がときおり起こっていることからもわかると思います。
適正な速度で登ってみるとどうなるか
「一般登山者の登高速度の実態」の結果を受けて、何人かに登高速度を表示できる時計を渡し、各人の体力に見合った上りの適正速度を指定して、さまざまな山で登山をしてもらいました。 すると図「適正速度を確認しながら上ることによる心肺トラブルの抑制効果」のような、劇的な効果が見られました。それ以前の登山では、毎度のように上りで心肺が苦しいと訴えていた人でも、登高速度を自分で確認しながら上ることで、トラブルがゼロになったのです。 この方たちに感想を訊ねてみると、「上りでこんなにゆっくり歩くものだとは思わなかった」という声が多く聞かれたのが印象的でした。上りのペースはもっと速いものだ、と思いこんでいた人が多いのです。