多くの人が速すぎる…適正な速さは、なんと「駅の階段10秒で5段」の遅さ…下山後の疲労が激変するはず
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】下山時の上手な歩き方…疲労やトラブルを防ぐ「山の下り方」 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、山での疲れにくい上りの歩き方のうち、速度の疲労に与える影響と、疲労しない速度のポイントをご紹介します。じつは、上りで歩く速度は、疲れる、疲れないだけでなく、活動中の健康トラブルにも関係する、大切な問題でした。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
上りでつらいと感じるのは「ペースが速すぎるから」
山道の上りでつらいと感じる登山者が多いのは、歩くペースが速すぎるからだと言えます。坂道を速く上ればきついことは誰もが知っているのに、なぜ山ではこのように歩いてしまうのでしょうか。 この問題について、いくつかの視点から考えてみます。 傾斜が中程度(約20%)以上の坂道を上るときの運動強度は、水平方向にではなく、垂直方向にどれくらいの速さで上っているか(登高速度)で決まる、という性質があります。 図「軽装で山道を上る場合の登高速度と運動強度との関係」は、このような山道を軽装で上る場合の、1時間当たりの登高速度と、運動強度との関係を示したものです。運動強度はメッツで示し、登山の種別や下界での運動とも関連づけてあります。 前回の記事で取り上げた「生活活動やレクリエーションスポーツの運動強度と登山との対比」の表もあわせて参照してください。登高速度が約300m/hのとき、運動強度は6メッツ程度となります。この速度とは、ハイキング的なゆっくりした上り歩行の感覚に相当します。下界での運動に置きかえると、平地で歩行とジョギングを交互に繰り返すような強度となります。 この図から、目指す登山のレベルに応じて、6~8メッツの強度範囲での運動が求められることがわかるでしょう。 ここで、安全で安心な登山の実現という意味で、すべての登山者に知っておいていただきたい大切なことがあります。それは、初心者、体力の低い人、健康に不安のある人、高齢者にとっても疲労しにくいペースとは、6メッツ台の登高速度(おおよそ300~350m/h)だということです。 反対に、このような体力や健康に不安のある人が、7メッツ以上のペースで上ろうとすれば、きつさを感じ、疲労も起こしやすいのです。しかし現実には、このような速すぎるペースで歩いている人が非常に多く、そこに大きな問題があるのです。