万感ラスト采配。掛布2軍監督の自己採点「31点」の美学と苦悩と育成流儀
「フォームバランスが良かった。変にボールがぶれることも抜け球も少なかった」 試合後、握手をしたとき、「よかったな?」と語りかけると、いい笑顔を返したという。 「これが、きっかけとなり、手ごたえを感じてくれればねえ。彼は感じているかもしれないね」 藤浪が2軍に落ちてきたとき、掛布2軍監督は、誰からもその理由を聞かされなかった。伝聞で、そのとき藤浪が号泣したという話を聞いた。 その涙の理由は何だったのか。 藤浪は、どこかおどおどとしているように見えた。メディアが、グラウンド外の理由をあれこれと取材しているのを知ると、「そんな話に根拠はあるのか、噂話を書かないでくれよ」と藤浪を守った。 掛布2軍監督は、悩める逸材の心の声に耳を傾けようとメシに誘った。 「侍ジャパンに選ばれるピッチャーなんだぞ。日本を代表する素材であり、実際、高卒で3年も続けて2桁勝利を挙げるピッチャーなどそういないんだ」 しかし、藤浪は2軍でも苦しんだ。 右打者にボールが抜けて、中日戦では、危険球退場というファームでは珍しい事件まで起きた。藤浪は相手打者にも、チームメイトにも頭を下げ続けていた。掛布2軍監督は、藤浪に言った。 「相手チームにも、打者にも、私たちがちゃんと謝っておく。おまえは謝らなくていい。野手に迷惑をかけているという気持ちもわかる。でも、それも私たちが野手に言っておく。だから謝らなくていい。周りにとらわれずに自分の野球をしてみなさい」 その後、藤浪は1軍で結果を出せていない。 この日、3回二死一、三塁のピンチに「4番DH」で出場していたエルドレッドに対してスイッチを入れた。最速155キロをマークして全球ストレートで最後は154キロで三振。まだ手投げで、本来の投球フォームをつかみきれていない藤浪が、この1打席だけは下半身を使い、従来の力感を持って投げていた。 確かなヒントは見えた。しかし、掛布2軍監督にすれば藤浪を再生しきれなかったのは心残りだろう。