起これば激甚被害、しかも予測不可能な「火砕流」…実は「世界のあちこち」で日常茶飯事に起きていた!
被害の大きかった雲仙普賢岳で生じた火砕流
たとえば、雲仙普賢岳の一連の噴火では、なんの前触れもなしに溶岩ドームが崩落して(A)のメラピ型のやや大きな火砕流が発生し、3人の火山学者をふくむ43人の犠牲者を出す惨事となった。噴火の現場には、溶岩ドームから発生した火砕流を近くから見たり撮影しようとした人たちが集まっていたのだ。 火砕流という現象は、人間の感覚からかけ離れている。たいへん残念なことに、当時の火山学者たちはまだ、火砕流の恐ろしさをリアルに伝えることができなかったのである(雲仙普賢岳の火砕流災害に関しては拙著『火山はすごい』(PHP文庫)に詳述した)。 これまで富士山では(A)と(B)のタイプの火砕流は起きていない。その代わりに、マグマが急斜面に落下した直後に走り出す(C)のタイプの火砕流が確認されている。
火砕流の規模と火山爆発指数
ここで、火砕流を噴出するような噴火の規模について見てみよう。 火山の噴火には、爆発の強さを表す指標がある。「火山爆発指数」(VEI)と呼ばれるもので、1回の爆発でどのくらいの量のマグマが放出されたかを示す。ちょうど地震のマグニチュードと同じように、数の何乗かを示す指数として0から8までの数値で表現されている。これに応じて、異なった見かけの噴火現象が起きるのだ。 同様に火砕流についても、小規模な火砕流と大規模な火砕流とがある。大規模な火砕流は膨大な体積をもち、分布域は数千平方キロメートルにも及ぶ。
カルデラが語る火砕流の威力
このような火砕流が噴出すると、地下のマグマだまりはほぼ空っぽになり、地上の噴出口には直径10キロメートルを超えるような巨大な陥没地形、すなわちカルデラができる。 ただ実際には、地下のマグマだまりの大きさは正確にはわからないので、空っぽになると言い切るのは科学的ではない。噴火によってマグマだまりの中の圧力が急に下がった結果、マグマだまりの天井を支えることができなくなって潰れる、というのが正しいだろう。 カルデラは体積にして10立方キロメートル以上のマグマを噴出した場合にできる。カルデラが残されるような大規模な火砕流をともなう噴火は、巨大噴火と呼ばれている。非常に破壊力が強いだけでなく、地球規模の災害をもたらすこともあるのだが、実は日本列島には、カルデラは至るところにあるのだ。