沈静化するAIブーム、導入企業が突き当たる「現実の壁」
人工知能(AI)は、推進派が語るようなバラ色の未来を、すべて実現させているだろうか? ビジネス界のリーダーたちは、口では今も生成AIに強い関心を抱いていると言っているものの、デロイトが先ごろ発表した調査でも示されているように、熱気は冷めつつある。 企業幹部や取締役のうち、生成AIに対する関心が「高い」「非常に高い」と回答した者の割合は、前者では67%、後者では57%だ。それぞれ、2024年第1四半期の値から8ポイントと6ポイント減少している。 デロイトでAI部門のトップを務めるジム・ローワンは、「これは、生成AIの活用に向けた多くの取り組みが、パイロット版、あるいは概念実証(PoC)の段階に留まっていることに起因する可能性が高い」と指摘する。全体で見ると、この調査時点の回答者の過半数が、社内の生成AIソリューションを製品に結びつけた割合は30%を下回っていると答えている。 「こうした取り組みから、実際の効果を得て、販売に結びつけるのは難しい状況だ」とローワンは述べ、「これらの取り組みが成熟して大規模展開が可能になるまでのあいだ、(生成AIが)当初の期待に応えるかどうかを見極めることが、各企業にとっての課題になる」とした。 要するに、我々はいまだに学習段階にあるということだ。信用調査会社のTransUnion(トランスユニオン)でデータサイエンスと分析部門のシニアバイスプレジデントを務めるマイケル・ウムラウフは、「私が関わる業界はどこも、大規模でグローバルな実験に参画している。生成AIとそれに関連する技術が、継続性のある事業価値を創出できるのかを見極める実験だ」と語る。「こうした実験が進展し、(これらのツールや関連するシステムを、どう適切に管理するかという点も含めて)理解が深まるのに従い、当初の期待は自然と下降線をたどり、よりしっかりと現実に根差したところに着地するだろう」 企業はまた、AIの周辺で発生しがちな問題についても学びつつある。「新たなガバナンスの要件から、スキルの高い人材の不足まで、企業は、あらゆる種類の制約に直面している」と、ウムラウフは解説する。 さらにウムラウフによれば、「我々のビジネスパートナーやステークホルダーのあいだでは、お互いの成功例や失敗例に積極的な関心を持ち、学びたいという真摯な姿勢が見受けられる」という。 確かに、AIは実力以上にもてはやされているかもしれない。「それでも、自社の事業への応用方法を見いだした企業にとっては、ゲームチェンジャーになり得る」と述べるのは、Andela(アンデラ)のバイスプレジデント、コートニー・マチだ(アンデラは、新興国のソフトウェア開発者と、先進国の企業をつなぐ人材派遣企業だ)。 「(AIを)自らの事業にどう活用するか、その方法を把握することにリソースを注ぎ込んだ企業が、一歩先んじている」とマチは語る。 マチは、企業が直面している課題の一端として、以下のような例を挙げた。「多くの企業は、導入の道筋をつけることや使用実績を得ることに苦労しており、しかもAIに関する問題を解決するのに適切な人材が社内に見当たらない状況だ。また、エンタープライズ向けのテクノロジーを使ってはいるものの、社内の生産性を高めるだけに留まっている企業もある。AIアシスタントがその一例で、これは確かに有用性が高いが、ROI(投資対効果)に結びつけるという視点で見ると、なかなか難しいものがある」 まだ見極めが進んでいないもう一つの要素は、AIへの投資に対する利益の測定がある。「そもそもの期待がどれだけ現実的だったのかによっても、評価は違ってくる。また、前もって時間をとり、明確な目標、成果の測定方法、成功の基準を定めていたかという問題もある」と、ウムラウフは指摘する。「初期の成功例は、頭脳労働者の生産性向上という形でもたらされている。こうした事例であれば、既存の慣行との比較による効果は、かなり直接的に把握できるだろう」 次々に出てくる生成AIツールは、「その汎用性を如実に示している」と、ウムラウフは付け加え、具体的には以下のような事例を挙げた。「プログラマーが、より良いコードを時間をかけずに書くことを支援し、コンテンツクリエイターのためにドラフトを作成し、長大な複数の文書を要約し、手早く知見を引き出している」