闇に包まれた「82人の死」――混迷ミャンマー、命がけで真相を語る市民たち
元軍人たちの告白
ミャンマー軍の軍人たちはなぜ、自国民に対し、ここまで苛烈な弾圧を加えることができるのか。クーデターを機に軍から離反し、逃亡を続ける4人の元将校の貴重な証言を得ることができた。
軍人たちは社会から切り離された状況で、家族とともに駐屯地内で大半を過ごし、ネット上でも行動監視されている。逃亡すれば死刑になることもあるという。 元少佐/ヘイン・トー・ウーさん(軍に16年勤続) 「家族も駐屯地に住まわされていて、簡単には抜け出せません。もし軍人やその家族が裏切る行為をしたら、起訴されてしまいます」
社会と隔絶した環境で、たたき込まれる軍の「思想」。特に強調されるのが「民主化を求める市民は悪だ」という考えだという。1988年に民主化を求める大規模な反政府運動が起きた際に軍は武力でデモを鎮圧、1000人以上の市民が殺害されたとみられている。しかしその後、兵士たちが教え込まれてきたのは「暴徒化した市民が兵士を大量に殺害した」という事実とは異なる歴史だった、というのだ。いま相次ぐデモ弾圧でも、軍は「デモ隊が暴徒化したから厳しく対処した」と繰り返しており、現場の兵士たちは、そうした軍上層部が掲げる正当化の論理を額面通り受け取っている可能性が少なくない。
元大尉/アウン・トゥー・ヘインさん 「軍にいると政治や国民についての記事は読めません。軍の上層部が内容を決めたテレビ番組や記事しか見られません。それを題材に討論会が開かれ、軍への忠誠心を持つように洗脳させられてきました。だから、残虐なことでも、自分たちの責任を果たしているだけだと信じて、怖がらずにやるんです」 軍の上層部が弾圧を続ける理由にはさらにもう一つの理由があると、元兵士たちは言った。 元少佐/ヘイン・トー・ウーさん 「権力を手放したら、持っている財産を全て失うことになるからでしょう」 元大尉/アウン・トゥー・ヘインさん 「軍の上層部の全員は利害関係者で、つながっています。利益を得続けるために、権力を維持し続ける必要があるのです」