闇に包まれた「82人の死」――混迷ミャンマー、命がけで真相を語る市民たち
女性の夫は、軍の攻撃から逃れようと川を目指していた。しかし、土手で待ち構えていた兵士たちに狙い撃ちされ、その場で命を落としたのだという。自宅に届けられた遺体は、頭からも鼻からも血が出ていた、という。 「軍が遺体を奪いに来るので、急いで埋葬しないといけませんでした。夕方、知り合いにお金を払って、なんとか埋葬を手伝ってもらえることになりました。墓地も軍が見張っているので、急いで埋めました。最後まで埋めることはできませんでした」 女性は涙ながらに思いを語った。 「夫は未練を残して死んだと思います。切ない。耐えきれないです。軍が憎いです」
「いつか捕まるなら真相を話したい」
こうした証言者の中に、あの日、弾圧のただ中にいて、九死に一生を得たという20代の青年がいる。ター・ジーさん(仮名)だ。軍の厳しい監視の目を逃れ、隠れ家に潜伏し続けている。いつ捕まるかわからないため、いまのうちに真相を世界に伝えておきたいと、私たちに話す覚悟を決めたという。
バゴーでは今年2月下旬以降、軍や警察による発砲が相次ぎ、死者も出ていた。そのため市民たちは、バリケードを築き軍の介入を防ぐことで、その内側で安全にデモを行うようにしていた。主要なバリケードには20人ほどの市民が交代で見張りにつくようになり、ター・ジーさんはそのうちの1人だったという。事件が起きた4月9日の夜明け前。ほとんどの見張りが仮眠を取っている時間帯に、軍は一斉に攻撃を開始。市民たちは寝込みを襲われることになった。 「午前5時ごろ、まず大きな爆発音が2度聞こえ、隣のバリケードの土嚢が吹っ飛ぶところを見ました。地面が揺れました。そのあと銃声が続きました。誰かが撃たれていましたが、それが誰かは確認できませんでした。軍はさらに攻撃してきて、私たちは逃げるしかありませんでした」
映像・画像解析が明らかにする事件の全貌
あの日、バゴーで何が起きたのか? 証言とあわせて、バゴーで撮影された映像、写真の収集・解析を行った。多くの人の手を介して集まる動画や写真には、日付や場所が間違っているものも混ざりがちだ。そこで衛星写真と突き合わせて場所の特定を行った。さらに、調査グループ「ミャンマー・ウィットネス」や日本に住むミャンマー人の協力も得て分析を進めると、市民相手に「軍事作戦」さながらの攻撃を繰り広げていた軍の姿が浮かび上がってきた。