闇に包まれた「82人の死」――混迷ミャンマー、命がけで真相を語る市民たち
現場となったのは、大通りの南側に広がる住宅地の、およそ2キロ四方のエリア。バゴーの市民たちは、クーデター直後、大通りで大規模なデモを行っていた。しかし軍がデモに対する弾圧を強め、死者が相次いだことから、デモの規模を縮小。事件前には、デモの安全を確保するために、3本の道路沿いに幾重にもバリケードを築き、軍の侵入を防ごうとしていた。土嚢は水をしみこませて重くし、簡単に撤去されないようにしてあった。 市民たちが築いた強固なバリケードを破壊し、多くの人を殺傷した武器は何だったのか?
市民を襲ったのは軍事作戦用の兵器だった
事件から4カ月が過ぎた8月初旬、私たちの元に届いた写真と証言から、軍がバゴーで使った武器の一つが特定された。バリケードの土嚢の間に挟まっていたという金属製の物体。表面には「HE」の文字が読み取れた。複数の軍事専門家への取材から、40ミリグレネードという弾頭の一部で、HEはHigh Explosive、殺傷能力の高い弾頭を表していることがわかった。 軍事専門家の一人は驚きをもって語った。 「これは軍事作戦用のもので、建物や戦車を破壊するために使用します。市民に対する使用が許されるものではありません」
市民は包囲され、袋小路に追い詰められた
攻撃のさなかに撮影された、逃げ惑う市民の映像。そこには、「あっちの通りからも軍が来るぞ」「このままじゃ挟み撃ちだ」などと、軍の追撃に逃げ場を失っている様子がうかがえた。軍の動きを地図上に落とし込んでいくと、市民たちの退路を断つように追い詰めていった状況が浮かび上がった。 「いつか捕まるぐらいなら……」と証言を決意した20代のター・ジーさん。脇道を縫って軍の追撃から逃れようとしたという。2キロほど走って、軍を振り切ったと思ったところでター・ジーさんの耳に聞こえてきたのは、モーターのような音。それは軍が放ったドローンだった……。上空からも市民たちを追い詰めようとしていたのだ。ター・ジーさんはとっさに近くの寺の敷地に隠れて助かったが、ほかのグループの生死は不明だという。 軍事作戦さながらの市民弾圧は、9時間に及んだことも証言から明らかになった。人権団体が確認した死者数は82人だが、軍が市民の遺体を持ち去ったとの証言も多く、正確な死者の数はいまもわからない。