トランプ再選の根本にあるもの――「反知性主義」と「不寛容」のアメリカを読み解く
アメリカ大統領選の結果を、皆さんはどのように受け止められただろうか。準備不足のまま担ぎ出されてしまった感のあるハリス氏だが、民主党陣営にはそれ以前からいくつかの大きな弱点があったように思われる。インフレによる物価高という身近な問題も、現政権への逆風になっただろう。だが、そういう当面の生活苦よりもう少し深い根本的なところで、民主党は人々の信頼を失いつつあったのではないか。その根っこにあるものに、拙著『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』『不寛容論:アメリカが生んだ「共存」の哲学』(いずれも新潮選書)で書いたことを通して近づいてみたい。 ***
『反知性主義』から見えること
一つはリベラル派のエリート化である。これはトランプ氏が最初に当選して世界を驚かせた頃からよく知られるようになった。反知性主義は、知性そのものへの反感というより、知性が特定の権力と癒着して既成化することへの反発である。反権威主義と言ってもよい。政治のアウトサイダーとしてワシントンへ乗り込んでいったトランプ氏は、反知性主義の格好の体現者だった。 では、自分自身が最高権力者となったらどうなるのか。彼の挑戦はそこで終わらない。今度は政権内部に存在するという「ディープ・ステート」を相手に、沼の泥を掻き出す作業に取りかかった。前回も今回も、勝ったのは共和党ではなくトランプ氏である。 対する民主党の変質も顕著である。かつては労働者の党だったのに、今は教育を受けたエリートの党に変わってしまった。これは、民主党が掲げる政策綱領を見れば明らかである。20世紀には労働団体の保護、課税の公平化、所得の再分配などを掲げていたのに、21世紀になると彼らの関心は妊娠中絶、男女平等、性や人種のアイデンティティに移ってしまった。問題は、それにもかかわらずいまだに彼らが自分たちは労働者の味方だと語り、おそらく自分たちもそう信じ込んでいたところにある。彼らが黒人やヒスパニックの票を当然のように当てこんで何もせずにいる間に、トランプ陣営は着々と彼らの票を取り込んでいった。 民主党の指導者たちは、クリントンもオバマも口を開けば「教育を受けろ」「大学へ行け」と言う。だが、それは結局「自分のようになれ」と言っていることになる。教育を受けたくても受けられない人に、成功者の驕りは快く受け止められないだろう。トランプ氏はそんなことを言わない。高学歴の人を真似する必要などない、悪いのはそう思わせている奴らだ、というのである。反知性主義は今も彼のトレードマークである。