雑誌記事に見る〈大正時代の家事観〉「使わなくてもすむ時間までを徒費しなければ美味しい料理が出来ないという理屈はない」
創刊以来、《女性の生き方研究》を積み重ねてきた『婦人公論』。この連載では、読者のみなさんへのアンケートを通して、今を生きる女性たちの本音にせまります。今回は、家事に関するアンケート。掃除、洗濯、炊事から名もなき家事まで、日々どのようにこなしているのでしょうか――。 【グラフ】1日に家事に費やす時間は? * * * * * * * ◆「お止しなさい、人真似みたいな」 1916(大正5)年に創刊した『婦人公論』。当初はオピニオン誌としての側面が強く、「家事」(掃除、洗濯、炊事、買い物など)に関する記事の掲載は、ほとんどありませんでした。 実際、1925(大正14)年6月号の「国家本位の家事経済の話」連載第1回の冒頭で、著者の中沢美代さんにこう指摘されています。 〈婦人公論に家事的方面の記事を加えようと思うから、何か書くように、という註文を最初に受けたのは、未(ま)だ二月末の或る寒い晩でした。 「お止(よ)しなさい、人真似みたいな。お互いに本領がある。そっちの方面は『主婦の友』や『婦人世界』あたりに任せて置いて、あなたの方は従来の主義で大いにおやりなさい。その方が好(い)いじゃありませんか。」と答えた私は、実のところ少しも気乗りがしていませんでした〉 手厳しい! その後も3度編集部から訪問を受け、結局中沢さんは仕事を受けることにしたのでした。 中沢美代(美代子とも。1874-1973年)は、東京家政研究会の主幹を務め、『料理』『簡易洋食の拵方食方』などを上梓した、当時の家政学の第一人者。全5回の連載では、裁縫、洗濯、食物について持論を述べました。 中でも食物については、米不足による米価の高騰などへの対策や料理法の改良の大切さ、食べすぎへの警告など、現代にも通じる分析が光っています。
◆家庭の幸福には時間が必要? とくに目を引くのは次の文章でしょう。 〈家庭の幸福のために須(すべから)く時間を冗費せよと主張するのでは決してない。使わなくてもすむ時間までを徒費しなければ美味しい料理が出来ないという理屈はないのである。 出来る丈(だ)け世話のかからぬ料理を撰び品数も少なくし、其上(そのうえ)料理道具や食器に改良を加える事も必要であると思う。 我国のそれに比べると洋式のものは至れり尽(つく)せりの便利な器具が非常に多い。<略> 採って以て我を益するものならば器具でも機械でも料理法でも材料でもこれに習って我がものにしてしまうことである。況(ま)してわざわざ外国のものに擬せずとも我国の丼茶碗を用いる丼飯の如きは誠に結構。小さな御茶碗に同じ御飯を二度も三度もおかわりする事に何の意義があるか。<略> 心長閑(のどか)に小笠原流のお浚(さら)いをした時代は本当になつかしい。あの優雅な厳粛なところは捨て難いには違いないけれども、この忙しい世の中では到底望めないことである〉(25年12月号) 時間のないなかで日々の家事をどうこなすか。大正時代の主婦たちも、現代と同じような悩みを持っていたことが窺い知れます。 ※表記を新字新仮名にしています 次回は「やめたい家事、やめた家事」のアンケート回答をご紹介します
「婦人公論」編集部
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