ピッチ内外で“好采配”を見せてきたバルセロナ監督、豊富な駒を使いこなせずブレーキ…現地記者は「シーズン序盤のチームとは似ても似つかない代物」と酷評
ハンジ・フリックがバルセロナの監督として最初の正念場を迎えている。 11月上旬までは順風満帆そのものだった。もちろん大前提として、開幕からの破竹の快進撃がある。しかし、彼の場合はそのピッチ上の結果だけではなく、自然体でバルサを指揮することを心から楽しんでいる様子が見て取れた。 【動画】バルサの今季ラ・リーガ3敗目となったラス・パルマス戦のハイライト 膝を手術したマルク・ベルナルが入院している病院に見舞いに行き、自己啓発書をプレゼントしたこと、選手たち御用達の高級レストランにスタッフを招待したこと、記者会見中に咳き込んでいるところを助けてくれた記者に飴を返したことなど、”いい人”エピソードにも事欠かない。 監督としてのマネジメントに目を向けても同様だ。長期離脱中のマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンの代役としてヴォイチェフ・シュチェスニーを獲得した後も、イニャキ・ペーニャに正GKの座を託し続けていること、セルタ戦の前半で引っ込めた左SBのジェラール・マルティンを続くチャンピオンズリーグのブレスト戦でスタメンに起用したこと、長い時間アップさせた末、出場なしに終わったエクトル・フォルトにみずから謝罪したことなど一つひとつが選手を鼓舞するエピソードとして称賛を受けている。 その一方で、練習では厳しさを前面に押し出し、移動中にクラブの公式ウェアの着用を義務付けるなど規律を徹底するドイツ人らしさもしっかり見せている。 しかし、ここにきてそのバルサの勢いに明らかな陰りが見える。とりわけ前節、ホームで下位に沈むラス・パルマス相手に喫した敗北(1-2)は痛恨だった。これでラ・リーガでは3試合連続白星なしだ。 負けが込めば監督は責任を追及される。もちろんフリックとて例外ではなく、中でも現地でよく聞かれるのが「バリエーションを増やすべき」という声だ。 確かに開幕以来、怪我人が続出していたことを逆手に取ってスタメンを固定し、オートマティズムを高いレベルにまで引き上げていた。その過程で前線では典型的なCFタイプ、ポケットへの進入が得意な左ウイング、幅を取りながら違いを生み出す右ウイング、中盤ではライン間でパスを受けてはさばくことで攻撃のリズムを作るトップ下、ビルドアップもゲームメイクもチャンスメイクもこなすインサイドハーフ、その後方に構えるアンカーと役割が明確化。そのそれぞれのポジションにロベルト・レバンドフスキ、ラフィーニャ、ラミン・ヤマル、ダニ・オルモ、ペドリ、マルク・カサドが君臨していた。 ダニ・オルモ(ベンチ入りしたものの、コンディション不良で起用されず)とカサド(前節のセルタ戦で退場処分を受けて出場停止)が欠場した前述のラス・パルマス戦で、フリック監督はペドリとレバンドフスキの2人だけはそのままに左サイドにパブロ・トーレ、トップ下にフェルミン、右サイドにラフィーニャ、アンカーにガビをそれぞれスタメンで起用したが、そのパフォーマンスをスペイン紙『スポルト』の副編集長、アルベル・マスノウ氏は「オートマティズムの欠如は明らかで、ゴールラッシュの連続だったシーズン序盤のチームとは似ても似つかない代物」と酷評する。 選手が変われば、当然オートマティズムにも影響が生まれる。ガビとフェルミンに加えて、フレンキー・デヨング、フェラン・トーレスと怪我人が続々復帰しているが、その融合も思うように進んでいない。スペインには、「乏しい戦力でやり繰りするよりも、豊富な駒を使いこなすほうが難しい」という考えがあるが、レアル・ソシエダ戦の黒星(0-1)とセルタ戦の引き分け(2-2)も含めた急ブレーキを重鎮ジャーナリストのサンティアゴ・セグロラ氏は、「フリックが見事にマネジメントしてきた乏しさを捨て、豊かさに似たものを手に入れた結果が1分け2敗だ」と表現する。 追い込まれた時にこそ必要なのがリーダーシップだ。就任以来、常に相手に寄り添う姿勢を示しながら、適材適所で選手の能力を最大限に引き出し、その真摯な取り組みで愛されキャラへと変貌を遂げたフリック監督も、ここが真価の発揮のしどころだ。 文●下村正幸
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