「91歳父を86歳母が介護」カメラに残る最期の日々。「あなたのおみとり」に映る老老介護の日常
自宅で91歳の父を看取ることを決めた、86歳の母。限られた父母の日々を息子が記録したドキュメンタリー映画『あなたのおみとり』(村上浩康監督)が話題を呼んでいる。東京・ポレポレ東中野、宮城・フォーラム仙台で上映中、ほか全国順次公開予定だ。 【写真で見る】『あなたのおみとり』91歳の父を、86歳の母が介護 末期がんで、緩和ケアか自宅介護の選択を迫られた母は「うちに帰りたい」という父の希望に沿って、寝室に介護ベッドを置き、ヘルパーさんや訪問看護師さんたちの来訪を受けいれる。
ドキュメンタリー監督の息子は、東京と実家のある仙台を往復し、限られた日々に向かい合う父母と、医療や介護に関わる人たちの仕事ぶりを記録していった。 ※以下、映画のネタバレがあります。ご注意ください。 ■父と母だけではなく、関わるすべてを映す 「ドキュメンタリーを30年ちかく撮ってきましたが、ぼくの最初の映画は2人のおじいさんを追ったもの。以来ずっとお年寄りばかり。今度はいちばん身近なおじいさんになりました」。そう村上監督は語る。
映画では、自宅介護の日常をつぶさに映すだけでなく、庭の虫や花、空などをクローズアップしたシーンが印象に残る。 お盆に目にするトンボは亡くなったひとの生まれ変わりだという言い伝えがある。 映画を観終わったばかりの30代後半の女性は、「つい先日子どもと外出していたときに、腕にトンボが止まって動かなかったことがあり、映画を観て、あれは母だったんだと思ったら涙が止まらなくなった」と話す。 『あなたのおみとり』のあなたは、死にゆく父であり、介護する母であり、関わった人、さらに観たひとたちを含んでいるのだ。
撮影も編集も村上監督がひとりで行った。母親の手助けになればとは思ったものの、その場に居合わせるとたいしてやれることがない。そこでカメラを回すことにした。 「映画にもちょっと出てきますが、つまんないことで、もめるんですよ。ベッドをどこに置くとか。布団はどれがいいとか。父に出す食事の食べさせ方だとか。だんだん険悪になって、実家に帰るのが億劫になる。どうやったら、自分が父の介護に積極的になれるのか考えたときに、撮影でもしてみようかと」