熊本地震で動物病院を「ペット同伴の避難所」に…一時230人受け入れ底をつく物資、支援求めたが断られ
熊本市の竜之介動物病院・院長の徳田竜之介さん(63)は2016年の熊本地震発生直後、ペットと飼い主を一緒に受け入れる避難所を院内に開設した。預かったいくつもの小さな命を救ってきた獣医師の信念は「動物の治療を通じて、飼い主の心もケアすること」。この思いを胸に今も第一線に立ち続ける。 【写真】病院をペット同伴避難所として開放した徳田さん。「動物と飼い主に寄り添い続けていく」
2011年3月11日に起きた東日本大震災では、多くの動物も犠牲となった。その年の12月、ペットの診療や保護のため、宮城、福島両県の被災地を訪れた。
知り合いの獣医師から、首輪につながれたまま死んだ犬や餓死した家畜がいるとも聞いていた。一方で、保護施設を回ると、生き残っても避難所で受け入れてもらえず、飼い主と離ればなれになるペットも多くいた。
福島県三春町の救護施設の犬や猫は、ケージの中で不安で悲しそうな目をしていた。見かねて、動物病院に連れて帰ろうと考えたが、飼い主は「いつか迎えに行くから」と譲渡に応じない。「この子たちは寒い中、ずっと待っているのに」。熊本市内で経営する動物病院を建て替えて、避難場所としても使えるようにしよう――。そう心に決めた。
「最大震度7に耐える耐震構造で」「自家発電装置などを備えて」。防災にこだわり、施工業者らに設計や設備内容を細かく注文した。13年9月に4階建てのビルが完工。1、2階は動物病院とペットホテル、3、4階には自身が経営する動物専門学校を入れた。
熊本地震が発生したのは、それから約2年半後のことだった。
16年4月14日午後9時26分、前震は犬の診療中に起きた。「丈夫な建物だから被害は大きくないはず」と処置を続けた。気付くと、病院前はペットを抱えた飼い主であふれかえっていた。割れたガラスの上を走ったのか、犬や猫は足から出血し、受付の床には血だまりが広がっていた。「病院をペット同伴の避難所として開放します」。治療に当たる一方、SNSでこう発信した。投稿を見た人が次々に拡散し、避難者はさらに増えていった。