世界中で大ヒット「ゲルカヤノ」の生みの親・アシックス榧野さんってどんな人?
WWD:正直ですね(笑)。しかし榧野さんがオリジナルをデザインしたシューズは「スポーツスタイル」の人気商品です。最初のバッシュ“ゲルエクストリーム“も復刻されて“EX89”、ランニングシューズの“GT2000"“ゲルニンバス“シリーズもストリートで愛されています。
榧野:僕は基礎を作っただけです。“ゲルカヤノ”とコラボするクリエイターはこの部屋(貴重なアーカイブ品が保管される神戸本社の資料室)に招き、アシックスのこれまでの歩みを紹介します。さまざまなアスリートの足元を支えてきた歴代のシューズはインスピレーションの宝庫。みんな一様に感動して帰ります。国内外のクリエイターによって僕らが作ってきたシューズに新しい魅力が加わる。デザイナー冥利に尽きます。
若い世代にシューズデザインを伝えたい
WWD:アスリートの名前を冠したスポーツシューズは、売り上げに応じてアスリートにインセンティブが入ることが多いようです。
榧野:僕の懐には1円も入りません。一会社員ですから。もし30年分の“ゲルカヤノ“のインセンティブが入ったら、すごいことになりますね(笑)。若いときに取得した特許や意匠登録があるので、毎年おこづかい程度の額は入ります。これも期限があるため年々減ります。
WWD:“ゲルカヤノ“がアシックスの社員デザイナーの名前だと知らない人も多いようですね。
榧野:ランニングが文化として浸透している海外では、僕の知名度はそれなりにあるようです。昨年は“ゲルカヤノ“デビュー30周年を記念して、米国と豪州の講演に呼ばれました。会社の歴史や“ゲルカヤノ“の開発秘話を話すと、みなさん、熱心に聞き入ってくれます。終わるとサイン攻めにあいました。
日本でもデザインを担当していた頃は、“ゲルカヤノ“の新作を出すたび店頭の販売応援に立ちました。懇意にしていただいていたスポーツミツハシ(京都の有力スポーツ専門店)が多かった。デザイナーとしてではなく、単なるメーカーからの販売応援スタッフとして、お客さんに応対します。「アシックスよりもナイキのデザインが好きなの」とか忌憚のない声を聞くことができます。プラスの声、マイナスの声も含めて、次の開発に生かすのです。