事業承継を推進するコマースメディアに、ブランディング専門家の河野貴伸氏が参画。日本の課題やめざす未来とは? 井澤代表と河野氏が対談
河野:井澤さんとの出会いのきっかけは「Shopify」だったにしても、今はコマースメディア社内で「Shopify」について聞かれることはほぼない。ものづくりやブランディング、採用・組織などの話題ばかり展開している。
相性の良い企業とは――。商品・サービス・ブランドに、こだわりとプライドを持つ企業と手を組みたい
森野:事業承継とは、具体的に何をしていくのか。M&Aとは別物だろうか。 井澤:同じではあるが、「M&A」と聞くとこちらからいろいろとバリュエーションをつけて積極的に買収しにいくような印象を与えてしまう。それよりも、「事業承継」の文字通り、「会社を高く売却したい」ではなく、「続けてほしい」と考えている方々と私たちがタッグを組む形にしたいと考えている。そのため、あえて「事業承継」と言葉にするようにした。実際に今までのケースも、それが叶えられている。 森野:気になった企業には、井澤さんから声をかけているのか。 井澤:成約している各社は、ほとんどが先方からの声がけだった。各社のビジネスを理解することが重要なので、まずは対話をしっかり重ねていき、その後は財務状況を見ながらデューデリジェンスを実施し、コマースメディアから金額を提示して譲受・承継する流れとなっている。コマースメディアから無理に取得しにいっていないため、これまでの3例はとてもスムーズに進められた。
森野:コマースメディアの売り上げを伸ばすことを目的とした事業承継ではないからこそ、円滑に進められたことはとても納得できる。
井澤:その通りかなと感じる。たとえば、ECであれば私は広告を無理に打って一気に売るのではなく、そのモノに自然と正しい価値を付けていくスタンス。これから先、承継した事業も自然と需要のなかでそのモノが伸ばせる領域を見極めていくことを大切にしたい。 森野:河野さんも承継した企業・事業に関わりながら、ブランド作りに取り組んでいるのだろうか。 河野:そういった面を期待されて参画したのも確かだ。以前、土屋鞄製造所に所属していた際に事業承継やM&Aに深く関わっていた。その経験にも期待していただいていると思う。当時は財務からものづくりまで、いろいろな業務に向き合わなければいけないことを身に染みて感じ、M&Aはすごく難しいと感じていた。土屋鞄はデジタルマーケティングの強さが際立っているが、もともと職人がとても多い会社。ただ、経営陣はものづくりに対して深く理解しているため、M&Aもすごく丁寧に進めている。そこで得た知見や経験が、私の人生に大きな転機をもたらしたと感じている。 そんな私の今の立ち位置としては、たとえばデューデリジェンスをするときに見えていないものをどうやって見極めるか、数字に出ていない部分をしっかり顕在化して検討材料にあげるかなど、比較的厳しい目で見る役目が期待されている。つまり、承継する事業の「伸ばしていくところ」という部分を支援しつつ、「現実的にこれが伸ばせるのか、価値を見出せるのか」というシビアな見方が必要とされる仕事が大半を占めている。 森野:これまで、河野さんがチェックして事業承継に至らなかった事例はあるのか。 河野:そういった事例はまだない。ただ、井澤さんの気持ちがものすごく高まっているときに、私ともう1人の事業承継を検討する担当者が、冷静に気になる点を指摘・確認しながら進めることはしばしばある。 井澤:私からすると、そこがとてもありがたい。創業社長というのはいろいろなことをやりたくなってしまう。それが会社を混乱させてしまうかもしれないと頭ではわかっていても、動いてしまう。そこに冷静に入ってもらえるので、すごく助かっている。 河野:私は逆に、社長はアクセルを踏んでいてくれる方が良いと考えている。M&Aの財務などを冷静に見る担当者側との衝突はどうしても起きてしまうものだが、そこに私が「ブランドとしてどうなのか」「ものづくりとしてはどうか」と介入することにより、フラットに議論できるようになっていると感じる。井澤さんが遠慮してしまうと、今度は他のスタッフが踏み込めなくなってしまい、事業承継自体が「なんとなくやらないといけない仕事」になりかねない。今は健全な良いバランスができていると感じている。 森野:河野さんの経験が、今のコマースメディアにすごくマッチしていることがよく伝わってくる。