「目的のためには手段を選ばない」…日本財界の黒幕・葛西敬之が用いた、「火砕流」と呼ばれ恐れられる強引なやり口
新幹線保有機構を解体した「火砕流」
「新幹線の買い取りは、やり方次第で数百億円単位の差が生まれます。だから運輸省内では、『そんな大事な話をいきなり黒野次長のところに持ってくるとは何事だ』と若手の連中が葛西さんに対して怒っていました。まずは現場で事務的に詰めてから、というのが普通のやり方でしょうから、若手の怒りも仕方ないかもしれません。が、葛西さんの発想はいつもそうじゃないんです。あの頃の葛西さんは今ほどの大物には見られていませんでしたけれど、目的のためには手段を選ばない、というか、非常に合理的な考え方をする。どこに話を持っていけば結論が早いか、キーパーソンを落とせばいい、と考える。それが“葛西流”で、いつしか“火砕流”ともじられるようになりました。上からトップダウンでドーッと、強引にやるからでしょう」 機構の解体は決まっているが、新幹線の買い取り価格は経営に直結する問題だ。揉めるのは必至である。JR東日本の社長だった住田などは話し合いが長びくのを想定し、「91年に予定している株式上場を優先すべき」だと主張していた。黒野が続ける。 「平たく言えば値段交渉です。なにしろ東海道新幹線はJR東海にとって、最も大きな生産手段で、他のJR各社とは重みが違う。山手線という東京都の一等地を資産として所有してきた東日本とは事情が違ったわけです。東海が企業として新幹線を所有できなければ、資産がうんと少なくなり、上場するときの魅力がなくなるわけですから」 黒田は葛西の意向を踏まえ、鉄道局次長としてJR東日本の松田やJR西日本の井手たちと議論を重ねたという。 「結局、私としては、どうやって話をつけるかなんです。一堂に会して話し合えば絶対にまとまらないので、会社ごとに個別に料亭なんかでサシで話し合いました。葛西さんの言う値段をそのまま受け入れるかどうかは別として、運輸省としてはじき出した数字を伝え、最後は、『反対するならしてもいいけれど、あなたのところは上場できないよ』と通告しました。あんまり論理的じゃないけれども、まとめる以外になかったのでね」 つまるところ黒野も葛西流に押し切られたということなのかもしれない。新幹線保有機構は91年10月、解体された。東北・上越、東海道、山陽というJR本州3社が運営する新幹線はそれぞれ開業時期が異なるため、新幹線は資産価値を見直され、合計9兆1700億円と計上された。これが各社の買い取り価格となったのである。 東北・上越新幹線のJR東日本は3兆1100億円、JR東海は5兆900億円で東海道新幹線を買い取った。JR西日本の山陽新幹線は9700億円だ。価格の割合でいえば、JR東日本が全体の33・9%なのに対し、JR東海は55・5%の支払いである。住田や松田の言い分もそれなりに通っている。 『政府から3600億円の要求!? …念願の「社長」になった直後に葛西敬之が直面したヤバすぎる「債務問題」 』へ続く
森 功(ジャーナリスト)