「目的のためには手段を選ばない」…日本財界の黒幕・葛西敬之が用いた、「火砕流」と呼ばれ恐れられる強引なやり口
同道する三人の正体
葛西は運輸省に同道した若い3人を黒野に紹介した。てっきりJR東海の社員だと勘違いしていた黒野は、名刺を受け取って驚いた。米国に本社のあるボストン・コンサルティング・グループのスタッフだったからだ。今ではさほど珍しくないかもしれないが、当時は第三者の社外コンサルタントに経営問題の根幹にかかわる依頼をすること自体なく、ましてや政府への陳情に同道することなどありえなかった。だが、彼らは何事もなかったかのように、説明資料を黒野に手渡して言った。 「JRを民間企業として見た場合、このままでは資産を保有していないので減価償却できず、仮に上場しても非常に虚弱な会社になってしまいます。したがって早急に新幹線設備をJR本州3社で買い取るべきです」 東海道新幹線でいえば、従来、車両のみだった年間500億円程度の減価償却費が、買い取って資産計上すれば2000億円ほどに増える。減価償却により経費として税額控除して浮いた分を設備投資にまわせる。ボスコンのスタッフが資料を示して黒野にそう説明した。葛西がさらに言葉を補う。 「つまるところ、JRにとって新幹線設備のリースは経営上あまりにもおかしな制度なのです。したがって一日でも早く保有機構を解体し、われわれで設備を買い取って所有しなければなりません」 もとより黒野もそこは理解している。問題は各新幹線の買い取り価格だ。 「価格については東日本にしろ、西日本にしろ、他の2社はまだ何も言ってきていません。だから、この場でそれを決めることもできません」 黒野がそう伝えたが、葛西はそれを無視するかのように言う。 「買い取りが今のリース料と同じ配分だと、東海の負担が大きすぎます。もっと東海の負担を減らしてもらわないと困る」 もともと新幹線の設備を特殊法人の新幹線保有機構に持たせていたのは、本州3社の収益性を均等化する手段だった。それなりに意味のある制度だともいえる。つまり、リースにしても買い取りにしても、新幹線で儲かっている会社がより多く費用を負担するというのが、分割民営化の決め事だ。そのため運輸省としては3社の意向を踏まえ、新幹線の買い取り価格を決定しなければならない。黒野自身がこのときの状況を振り返った。