「目的のためには手段を選ばない」…日本財界の黒幕・葛西敬之が用いた、「火砕流」と呼ばれ恐れられる強引なやり口
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第36回 『躍進する航空業界に対抗するための「3つの方針」…JRが当時最速級の時速270kmを誇る「のぞみ」を打ち出す陰にあった「衝撃」の戦略』より続く
JR本州三社の主張
国鉄改革当時、JR東日本の社長の椅子を欲しがっていたとされた葛西は、さすがにあきらめたのだろう。もっとも、JR東日本の社長に就いた松田昌士やJR西日本社長の井手正敬への対抗意識は消えなかったようだ。 「僕が葛西さんと激しく議論したのは、新幹線保有機構の解体と新幹線の品川駅、それに国鉄清算事業団の年金債務問題です。それらは民営化したJRの株式上場のための準備でした。どうやったら東、東海、西の本州3社が上場できるか、と国鉄改革三人組と議論していきました」 旧運輸省で事務次官まで務めた黒野匡彦が振り返った。国鉄分割民営化時、国鉄改革関連法は、JR本州3社に関し10年以内の株式上場を目指すとしていた。3社はそのために特殊法人「新幹線保有機構」の解体が不可欠だと主張してきた。
上場準備に勤しむ葛西の思惑
新幹線保有機構は国鉄改革に伴って設置された特殊法人である。国鉄分割民営化にあたり、東北、東海道、山陽といった新幹線について、車両以外の土木構造物や車両基地、線路といった地上設備を所有してきた。民営化後、JR各社がそれぞれの路線収入に応じて使用料を払うリース制度を導入する。保有機構が新幹線の設備を30年間所有しながら、各社のリース料によって国鉄時代の債務処理をするとしてきた。 国鉄改革のとき国鉄再建監理委員会事務局に派遣された黒野は、運輸省国有鉄道改革推進部長を経て91年7月、鉄道局次長に就任する。もとより葛西は知らない間柄ではない。 「この度は次長昇進、おめでとうございます。久しぶりにお目にかかりたいのですが、ご都合どうでしょうか。JRの株式上場について、相談があります」 葛西本人からそう連絡を受けた黒野は、運輸省内の会議室を用意した。葛西は他に3人を引き連れ、そこに現れた。 「まずは改めておめでとうございます。ご挨拶がてら、今日は上場準備について説明したいと思いましてね。そのために連れてきました。彼らに説明してもらいます」 議題は、JR本州3社の株式上場にあたる財務処理の見直しだ。民営化後、JR3社は新幹線のリース制度の下、車両以外の設備の大半を資産として所有できなかった。改めて説明するまでもなく、減価償却は企業や個人の資産に対し、複数年に分けて損金として費用計上できる会計処理である。その分、法人税や所得税の減額を見込む。民営化後のJR各社はどこも車両に関する減価償却しかできなかった。そこで新幹線設備の資産化のため、保有機構の解体と新幹線設備の買い取りを要望したのである。90年6月に開かれた政府の「第3回JR株式基本問題検討懇談会」で、その新幹線保有機構の解体が本決まりになる。最も機構の解体に熱心だったのが、JR東海の葛西だ。