日本郵政キャピタルが「民泊無人管理」のスタートアップに出資する理由
「合理的でない批判」は、ビジネスチャンス
インタビュアー:事業の出だしや、オペレーションは順調でしたか? matsuri technologies 吉田氏:このビジネスをはじめた当初は、根拠もなく「無理だ」「上手くいくはずがない」「前例がない」といった声を多く聞きました。とはいうものの、私自身はアメリカでは民泊が2割以上あり、民泊物件をREIT(リート:不動産投資信託)として、投資対象とする流れもあることを把握していました。「合理的でない批判」は、ビジネスチャンスという言葉を思い出し、これはいけると思っていました。 日本郵政キャピタル シニアマネージャー 井形 晋太郎氏:matsuri technologiesの素晴らしいところの一つは、無人管理ソフトウェアというテクノロジーの価値だけでなく、宿泊地におけるオペレーションの提供、継続的改善というリアルの価値も提供している点があります。無人で民泊物件を管理することのイメージは多くの人が出来ると思いますが、いざ、オペレーションに落とし込んでサービスを提供するとなると、別次元の難しさがあると思っています。 日本郵政グループでは、2024年5月15日に「JP ビジョン2025+(プラス)」を策定しました。これは、2021年5月に策定した中期経営計画「JP ビジョン2025」のブラッシュアップ版ともいえるものですが、その中の成長戦略において「不動産事業」には多くのページが割かれています。日本郵政不動産としては計約5000億円の不動産投資を予定しているほか、ゆうちょ銀行の不動産投資は足許約4.3兆円まで拡大、かんぽ生命のオルタナティブ投資は約1.6兆円まで増加(うち半分を不動産・インフラのアセットが占めている)していますが、「JP ビジョン2025」の成長戦略とmatsuri technologiesの成長戦略が絡み合って、相互に成長する姿を考えるのは非常に楽しみです。
観光の原石を掘り起こす
インタビュアー:すでに2000件以上の宿泊施設を運営されているそうですが、更なるチャレンジはありますか? matsuri technologies 吉田氏:将来的にmatsuri technologiesは、訪日客の行先の多様化を支援し、オーバーツーリズムの解消にも寄与したいと思っています。人気の地域や史跡に訪日観光客が集中するのには、理由があります。宿泊施設の数です。泊まるところがなければ、観光客は来ません。 matsuri technologiesが、より広域の、より多くの宿泊施設を支援することによって、観光客の分散を図ることが出来るでしょう。 また、matsuri technologiesがソリューションを提供している宿泊施設は、世界中の人が利用する民泊予約サイトであるAirbnbから予約できます。この影響は大きく、従来の国内旅行中心の予約サイトとは客層が異なるのです。 一例を挙げると、伊豆の赤沢では、いままでは比較的年齢が高めの方の予約が多かったのに、急に若者が来るようになったそうです。集客チャネルが違うということです。 人口戦略会議によると2050年には4割の街が無くなるとも言われています(※4)。matsuri technologiesのソリューションが多くの地域で使われることによって、旅行客が観光の原石を見つけることをお手伝いしたいと思っています。 ■新産業共創への想い インタビュアー:今回の出資に対する特別な想いはありましたか? 日本郵政キャピタル 井形氏:日本郵便子会社Tollの米国拠点に出向していた際、既存のフォワーディング事業(B2B)に個宅配送のサービスを付加し、B2B2Cの新サービスを創り上げる機会に恵まれました。日米の異なる組織・企業をつないで新しいサービスを作ることをリードしたことで、新しい価値を創造する素晴らしさを実感し、日本でも何か新しい価値創造をしたいと想いを持っていました。 そこで出会ったのが、matsuri technologiesでした。新しい価値の創造だけに留まらず、新しい産業の創造に取り組んでいるビジネスパートナーに出会えたわけです。 日本郵政キャピタルの出資・シナジー創出を振り返ると不動産関連のものは少なかったので、正直、当初は確度が低いかもしれないと思っていました。 そんな中、日本郵政グループ内で不動産に関連するメンバーと知り合う機会があり、前向きなフィードバックや協業アイデアの構想にも後押しされ、今回の出資につながりました。 そして、なにより、みんなが応援したくなる吉田さんの人柄に触れることが出来たものも、この仕事をする上で、大きな喜びでした。