アクティビストeriさん「DEPT」オーナーが環境問題でアクションを起こしたのはなぜ?
日々、ニュースで報道されるさまざまな地球環境の問題。自分に何ができるんだろう?と感じている人は多いのではないでしょうか。環境問題に取り組むアクティビストのeriさんも、かつては漠然と危機感を抱いていたそう。大きな一歩となったという2021年の「Peaceful climate strike」、「気候辞書/CLIMATE DICTIONARY」の開設をはじめ、アクティビストとしての運動を通じて届けたいメッセージを伺いました。 アクティビストeriさんの写真をもっと見る
■アル・ゴア氏の『不都合な真実』で、気候変動に強い危機感を抱いた ――日本のヴィンテージショップの先駆けとして知られる「DEPT」や、テーブルウェアブランド、輸入雑貨店などを経営する傍ら、アクティビストとして活動するeriさん。精力的に取り組んでいる、環境問題に関心を持ったきっかけを教えてください。 eriさん:「何かを選択するときには自然に優しいものを選ぼう」と教えられて育ったため、幼い頃から、自然や環境は大切にしなければいけないんだ、という意識は持っていました。初めてしっかり向き合ったのは、高校で沖縄の基地の問題を学んだとき。そこで、基地の影響による環境破壊に関心を抱いた記憶があります。 大人になってからは、ファッションブランドを運営する中で、ファッション業界が環境汚染度の高い産業であることを再認識。後に父親が創業した「DEPT」を引き継いだのは、環境問題に対して、古着が新たに担える役割を感じたことが理由のひとつです。 そして22歳頃のときに手に取ったのが、アメリカの元副大統領、アル・ゴア氏のドキュメンタリー映画『不都合な真実』の書籍。そのとき温暖化が地球環境にどんな影響を及ぼしているかを詳しく知り、強い危機感を覚えました。 しかし当時は、「mother」の運営を始めたばかり。環境問題の勉強に本腰を入れる気力も時間もなく、漠然と不安を抱えながら、10年以上の時が過ぎてしまいました。そして2019年、IPCC1.5℃特別報告書(Intergovernmental Panel on Climate Change=国連気候変動に関する政府間パネル)を初めて手に取り、大きな衝撃を受けたことが転機になりました。 ■「このままじゃいけない」。気候変動を自分ごとと捉えた瞬間 ――IPCC1.5℃特別報告書は、どのような経緯で手に取ったのでしょうか。 eriさん:昔から政治にも興味があり、政治に関するリサーチの一環でIPCCについて知りました。IPCCは世界で最も信頼度の高い気候変動に関する報告書と言われており、初めて読んだ当時すでに、「現在の温暖化対策では、数年後に絶対に越えてはいけない平均気温に達してしまう」という危機的状況が記されていたんです。 それを機に気候変動について調べると、ゴミやエネルギーの枯渇、森林伐採など、すべての問題の原因が、私たちの生活と密接していた。自分の生活とは少し遠い存在にあるように感じていた気候変動が、まさに自分の手もととしっかりつながっていると知り、初めて「自分ごと」として捉えるようになりました。 ――自分ごととして捉えるようになったのを機に、ご自身の意識や行動に変化はありましたか? eriさん:「仕事ばかりをしている場合じゃない!」と感じて、すぐに勉強を始めましたね。情報を集めるために気候変動や環境問題を扱うNGOと連絡を取り合う中で、同じような問題意識を持つ人たちとの出会いがあり、知識を深めていきました。 深く知れば知るほど焦燥感が募り、2021年4月に気候リーダーズサミットの開催が決まると同時に、何かアクションを起こそう!と決断。当時の自分ができる、非暴力的で最もインパクトのあるアクションとして思い立ったのが、ハンガーストライキでした。 「Peaceful climate strike」と題したストライキで私たちが求めたのは、日本のCO2削減目標(NDC)の62%以上引き上げと原発石炭ゼロ。気候アクティビストの小野りりあんと私で3日間、断食する様子をライブ配信しながら、有識者やアクティビストの方たちとともに気候変動の問題を提起しました。 ■仲間と成し遂げたストライキは、アクティビストとして大きな糧に ――「Peaceful climate strike」を通じて、どのような収穫がありましたか? eriさん:ひとつは仲間。開催まで2週間を切ったタイミングで企画したにもかかわらず、約30人が集まってくれて、泊まり込みで配信や私たちの体調・メンタル面をサポートしてくれました。仲間とともに運動を作り上げた体験は大きな糧となり、今の活動にもつながっています。 もうひとつは、アクションを起こす価値を実感できたこと。私たちのストライキをきっかけに、古道具屋で働き始めたという人や、気候変動を学んで講師になったという人たちとの出会いがあり、3年がたった今も「ストライキを見ました!」とメッセージをもらったり、声をかけていただく機会があります。残念ながらストライキの目的は達成されず、大きな挫折を味わいましたが、それらの出会いや声に救われました。 ■環境問題を手軽に、簡単に学べるプラットフォームを作りたかった ――ストライキから1年後の2022年には、気候変動に関する最新ニュースなどを包括的に発信するInstagramアカウント「気候辞書/CLIMATE DICTIONARY」を開設されました。タイトルや構成の着想について、教えてください。 eriさん:思いついたのは、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に参加するためスコットランド・グラスゴーに滞在していた2021年10月。一緒に参加していた(小野)りりあんと、毎晩のように「ストライキの次のステップとして、私たちには何ができるんだろう?」と思考を巡らせていました。 そこで気候問題を発信する際の課題として、「わかりやすく伝えること」が挙がったんです。専門用語や数値をそのまま提示しても、初めて聞く人は理解できないことがほとんど。私自身もとても苦労した経験を思い出して、「学べる環境が整っていないことが、環境問題が広く認知されにくい原因なのでは」と感じました。 わかりやすく情報を提供すれば、もっと多くの人が関心を持てるはず。そうしてたどり着いたのが、“気候について手軽に調べることができる辞書”でした。 ――「気候辞書/CLIMATE DICTIONARY」を作るうえで、こだわったことを教えてください。 eriさん:一番は、わかりやすい言葉で簡潔に書くこと。インフォグラフィックを添えて解像度を上げたり、おしゃれなイラストで彩りを加えたりして、多くの人の目に留まり、シェアしたくなるような投稿作りを心がけています。そして、拡散力のあるSNSの中でも、ビジュアルで伝えられるInstagramをプラットフォームに選びました。 ありがたいことに、「知りたい情報が詰まっていた」「気候変動について、もっと深く学びたくなった」などのポジティブな反響をたくさんいただいています。将来的には、蓄積した投稿をもとにウェブサイトを作成することが目標です! ■3.5%の人が動けば改革は起こせる。お守りにしている法則 ――社会問題への取り組みは、とても根気と忍耐力のいる作業だと想像します。eriさんがアクティビストとして活動を続けるにあたり、大切にしている意識や言葉はありますか? eriさん:「3.5%ルール」と呼ばれる、私を含め、世界中のアクティビストが“お守り”のようにしている法則があります。この法則を発見したハーバード大学の政治学者、エリカ・チェノウェス氏が20世紀のさまざまな革命・抗議行動を調査したところ、人口の3.5%以上が関与する抗議行動は必ず何らかの変化を生んでいた。つまり、その場所の3.5%の人が動けば改革は起こせるんです。 そのために私が大切にしているのが運動という名の「種まき」。私が持つ知識を植物の種に例えると、ストライキや気候辞書などのアクションは、種まきをしている感覚に近いんです。種をまいてすぐに芽吹かないのと同じで、発信した知識が誰かの行動につながるのは1年後かもしれないし、15年後かもしれない。もちろん芽吹かない可能性もあるけど、まいた分だけ可能性は上がりますよね。 私が環境問題の勉強を始めた2019年から、わずか5年の間にも、仲間は着実に増えている。増えていく仲間たちと種まきを続けていけば、3.5%は決して不可能な数字ではないと信じています。 ▶【アクティビストeriさんインタビュー後編】環境問題で個人ができることとは?「”気候正義”が私の原動力」 アクティビスト eri 1983年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。父親は日本のヴィンテージショップの先駆け「DEPT」の創業者で、幼い頃から古着に囲まれて育つ。2004年に自身のブランド「mother」を立ち上げ、2015年には父親から引き継ぐ形で「DEPT」のオーナーに。社会問題に取り組むアクティビストとしても活動し、市民による課題解決のための、さまざまなアクションを企画・主宰している。2022年、Instagramアカウント気候辞書/CLIMATE DICTIONARYを開設。 撮影/垂水佳菜 取材・文/中西彩乃 構成/渋谷香菜子