「この映画は『失敗例』」。統合失調症の姉と家族を記録した映画『どうすればよかったか?』監督が語る胸中
「誰かに相談し、協力していくことは本当に大切だった」
―お父さんはこの作品を観られたのでしょうか? 藤野:父のインタビューを撮ったときに、その時点でできていたものを見せました。驚いたのが、すでに他界した母が出てくるところで「これは誰の声だ」と言うんです。10年ぶりだったのでわからなかったようで、母さんだよと僕が言ったら「そうだったか」と。それ以外の部分は眺めるだけであまり反応はなく、唯一顕著に反応したのが母についてでした。 ―知られたくないであろうパーソナルな内容を多分に含みますし、本作を映画として公開することには相当の葛藤があったかと思います。 藤野:姉や両親の名前、出身校、仕事場など個人情報はできる限りわからないようにしています。ただ、劇中に登場した叔母以外の親族には、この映画のことは言っていないんですよね。伝える必要もないと考えているので。最悪親戚たちとの関係がなくなるかもしれないという葛藤はかなりありました。 それでもここでやめてしまったら、姉に起きたことを両親と同じく隠してしまう。それなら世に出したほうが、きっと悪い効果以上に良い効果も生まれるはずだと公開する覚悟を決めました。 ―たしかにこの映画を観て、同じような境遇の人が前に進むヒントを得たり、人に相談しやすくなったりというプラスの影響もありそうですよね。 藤野:この映画はかなりひどい「失敗例」なので、これを観たあとでは話しやすくなるんじゃないかなと思います。 じつは僕が一番つらかった時期は大学生ぐらいの頃なんですよ。当時は相談相手もおらず、知識も情報もなかったから。でもその後いろんな人に相談するようになったんです。客観的に家族を見られる叔母や社会福祉協議会の人に話を聞いてもらったり、(統合失調症の)家族会のメーリングリストで匿名で相談したりして。専門家でなくとも一人で考えるよりかはずっと良い。自分の体験を振り返っても、誰かに相談し、協力していくことは本当に大切だったと実感しています。