【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】初起用の平川亮は「速さもあってフィードバックも素晴らしい」ベアマンSFテスト参加の意図
2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。最後の3連戦を終えて、2024年シーズンが終了した。ハースは当初の目標よりもひとつ上のコンストラクターズ選手権7位でシーズンを終え、マネージメント体制の変化が結果に繋がったという。またシーズン終了後に行われたテストでは、若手ドライバーの枠に平川亮を起用。小松代表は平川の速さや的確なフィードバックを高く評価した。2024年シーズンと、ポストシーズンテストを小松代表が振り返ります。 【写真】2024スーパーフォーミュラ公式テスト/ルーキーテスト オリバー・ベアマン(Kids com Team KCMG) ──────────────────────────────── 2024年F1第22戦ラスベガスGP #20 ケビン・マグヌッセン 予選12手/決勝12位 #27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選9番手/決勝8位 第23戦カタールGP #20 ケビン・マグヌッセン スプリント予選15番手/スプリント8位/予選10番手/決勝9位 #27 ニコ・ヒュルケンベルグ スプリント予選9番手/スプリント7位/予選18番手/決勝DNF 2024年F1第24戦アブダビGP #20 ケビン・マグヌッセン 予選4番手/決勝16位 #27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選15番手/決勝8位 ●ドライバーズ選手権 #20 ケビン・マグヌッセン 15位(16ポイント) #27 ニコ・ヒュルケンベルグ 11位(41ポイント) ●コンストラクターズ選手権 マネーグラム・ハースF1チーム 7位(58ポイント) ■平川亮をテストで初起用。速さやフィードバックに驚き 2024年シーズンが終わりました。まだシーズンが終わっても忙しい日が続いているので、1年を振り返る余裕もあまりありませんが、まずはポストシーズンテストの話をしようと思います。今回は、若手ドライバーの枠に平川亮選手を起用しました。起用の経緯としては、ハースとTOYOTA GAZOO Racingの提携があってマクラーレンが平川選手をリリースしてくれたので、うちのクルマに乗ってほしいと思い声をかけたことがきっかけです。 走りを見た感想としては、すごくよかったです。テストでは133周(約650km)を走りましたが、速くてフィードバックも態度も素晴らしかったですし、大きなミスもありませんでした。ミスをしたとしても自分がどこでそれをしたのかわかっていましたし、対応力もありました。加地さん(編注:TOYOTA GAZOO Racingの加地雅哉モータースポーツ担当部長/技術室長)にもそう伝えましたし、これまで日本で育ってきて(WEC世界耐久選手権に出場しているのは知っていますが)、海外のサーキットでF1に乗り始めてからあれだけの速さを発揮できるドライバーというのは(佐藤)琢磨くんくらいしか見たことがなかったので驚きました。 あれだけ速くて、コミュニケーション能力や対応能力があれば、リザーブドライバーのレベルでいえば問題ないと思います。欠点はなかったと感じました。ただ、レースドライバーとして本当にプレッシャーがかかるなかでどれくらい結果を出せるのかという点についてはわかりません。 それから同じ時期に行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権のルーキーテストにオリー(オリバー・ベアマン)が参加しました。というのも、来年メルセデスに乗るアンドレア・キミ・アントネッリがこのテストに参加することを知っていたので、鈴鹿という難しいサーキットでF1と大きなタイム差のないスーパーフォミュラに乗れる機会があるならそれを彼に与えたかったのです。オリーの速さはわかっているので、来年の日本GPで初めて鈴鹿を走ることになっても問題ないとは思いますが、期待されているルーキードライバーとしてライバルになるアントネッリと同じ機会を与えたかったということです。 それにこういう機会を与えることで、チームがオリーをサポートしているということを彼にわかってほしかったというのもあります。オリーは当初アブダビGPのFP1を走る予定でしたが、選手権争いが佳境だったこともあって、僕はFP1を走るドライバーがレースにも出場するべきだと考えオリーの起用を断念しました。 またオリーは今年グランプリに3戦出場しているので、アブダビテストでも若手ドライバーの枠で走ることができません。タイヤテストの方で半日走らせてほしいと言われたのですが、エステバンはフェラーリのパワーユニット(PU)を使ったことがないのでそれに慣れなければいけないこと、またハースのエンジニアやメカニックと仕事をするのも初めてなので1日乗る必要があることを伝え、ここでも彼を走らせることができませんでした。つまりオリーが走る機会をふたつ断っているので、こういった機会を彼に与えなければ僕たちがいい仕事をしてるとは言えません。スーパーフォーミュラのテスト自体も最後にちょっと問題がありすべてのプログラムをこなせなかったもののとても有意義でした。 ■目標を超え、選手権7位を達成した2024年 次に2024年シーズンを振り返ってみようと思います。開幕前にコンストラクターズ選手権で8位になるという目標を立てましたが、チーム内でのコミュニケーションや考え方、意識などを変えたことが選手権7位という成績に繋がったので、そういう意味ではすごくよかったと思います。 特にイタリアGP以降は入賞を重ね、シーズン後半戦でポイントを獲れなかったのはサンパウロGPだけでした。ハースは今年で9年目のチームですが、これまでずっと「開発のできないチーム」だと言われてきて、エアロ関係のスタッフたちはチーム内外から批判を受けて「開発の仕方を知らない」だなんて言われていたんです。それはもちろん彼らのせいではなくて、マネージメントする側の問題でした。だから今年彼らが実力を発揮できるような環境を整えて、他チームを上回る開発力があることを示せてよかったです。 マネージメントが変わってよくなった点を具体的に言うとするなら、実際のクルマの問題点を開発にしっかりと反映できたことです。昨年まではそれがうまく行かなかったので、コミュニケーションを改善したり、実際に開発をしている人たちのボトルネックを解消しました。ちょっとした組織の変更、考え方やレースチームとしての動き方を変えたんです。風洞や使っているソフトウェアは一緒ですし、エアロ部門のリーダーも変わっていませんが、今年こういうことができたということがみんなの自信になってくれればいいなと思います。 一方で、シーズン後半戦はトップ10に入れるクルマがありながら選手権で6位になれなかったのは、そこが残念ながら今のチームの実力だと思います。僕も含めて現場の実力不足です。2025年に向けての課題は探さなくても目の前に山積みですが、現実的な僕の目標は選手権6位です。来年は現行のレギュレーションが適用されるので、実力差は縮まるはずです。中団勢を見てみると、ずっとノーポイントだったキック・ザウバーはフロアのアップデートで確実に速くなり、最後の2戦は予選で1台ずつQ3に進んでいました。ウイリアムズやRBも、安定感はなくとも速い時は本当に速かったです。アルピーヌが速くなったように、みんな改善していくでしょうね。 だから来年の選手権で今年と同じ結果を出すのは難しいと思いますが、チームをよりよくすればもっと厳しい状況でも戦えるはずなので、個人的には6位が目標です。でもまあ、こういう目標は相手があってのことなので、うちが改善できる部分を短期間でできるだけ改善していくだけで、それしかないと考えています。 ■チームのために戦ってくれたベテランコンビ もうひとつよかったことは、ニコとケビンのチームメイトとしての協力の仕方です。お互い相手より速く走りたいというのはもちろんありますが、それがあった上でふたりはチームのために共に戦ってくれました。コース上で僕がチームオーダーを出したりポジションをスワップする時も何の問題もなく従ってくれましたし、その関係がすごくよかったです。お互いにいい仲間であり、いいチームメイトだったと思います。ニコもケビンも今年で最後になりますが、感謝しています。 ニコはハースに来た時からうちのクルマがどれくらい速いかを示してくれました。予選では特にプレッシャーにも強くて、彼のなかでも自信があって結果を出してきました。反対にプレッシャーのなさそうなところでミスをしたこともありましたけどね……。またニコはチームの環境にも左右されやすいところがあったので、今年は僕がチーム代表という立場から彼がパフォーマンスを発揮できるような環境づくりをしてきました。だからこそ一緒にうまく働くことができて、彼もそれに満足して自分の能力を発揮しやすかったのだと思います。 アブダビでお別れ会をしたときに、ニコが「今までのF1人生で一番いいチームだった」と言ってくれたのですが、これは彼の本心だと思っています。そういう環境を作ることができてよかったですし、来年もエステバンとオリーと一緒にこういう環境を作らないといけません。 それからケビンについては、2022年にチームに戻ってきてくれたときにチームを救ってくれました。あの時ケビンは体力も首のトレーニングも間に合っていないなかバーレーンでテストを走り、開幕戦で5位に入賞したことで、僕たちはあの年のクルマがそれほど悪いものではないということを知ることができたんです。 昨年の中盤からはいろいろな相談にも乗ってもらいましたし、僕がチーム代表になってからも助けてもらいました。ケビンの助けがなかったら、今年の最初の頃はもっと大変だったと思います。プレシーズンテストの時は何をするのかという方針や目標を理解してよくやってくれましたし、シーズン中もチームにとって選手権がどれほど大事か、1ポイントを獲ることにどんな意味があるのかをよくわかってくれていました。終盤戦はアメリカGP、メキシコシティGPといい流れだったのにサンパウロGPで体調不良になり欠場を余儀なくされたこともあって、今年は運がなかった場面もありましたけど、それでもケビン・マグヌッセンというドライバーとしてのほぼすべての力を引き出せたかなと思います。 [オートスポーツweb 2024年12月23日]